「院長ブログ」カテゴリーアーカイブ

急性緑内障発作後の白内障手術

急性緑内障発作(急性原発閉塞隅角症)は、急激な視力低下とともに、頭痛や嘔気などを伴うこともある、重要な眼科的救急疾患の一つです。本疾患の治療として、視力を向上させる意味でも、房水流出を良くして眼圧を下げる意味でも、白内障手術は推奨されている治療法です。白内障手術は、術前に種々の眼科的検査を行ったうえで、水晶体を取り除いて眼内レンズを挿入する術式ですが、眼内レンズの度数は術前の眼科的検査の結果を勘案して決定されます。通常の症例でも、術後の屈折検査において術前に予想された度数に合致せず、強い度数の眼鏡を処方する例もありますが、本疾患では、そのようなことがより多く生じると言われています。

本論文では、急性原発閉塞隅角症に対する白内障手術について、術後の屈折の度数が異なってしまう原因として、本疾患の罹病期間と関連すると報告しました。よって、本疾患においては、早急な眼圧下降治療が必要となります。

http://link.springer.com/article/10.1007/s10384-013-0285-1?wt_mc=alerts.TOCjournals

原発閉塞隅角症

以前にも述べました通り、「緑内障の本態は進行性の網膜神経節細胞の消失とそれに対応した視野異常である緑内障性視神経症(glaucomatous optic neuropathy: GON)」です。そのため、従来の(房水の流出路である隅角が狭いタイプの緑内障である)原発閉塞隅角緑内障と呼ばれていたカテゴリーの中で、視神経が障害を受けていない一群を「原発閉塞隅角症」と呼ばれるようになりました。以下に緑内障診療ガイドラインの記載を示します。

(1)原発閉塞隅角症疑い(primary angle closure suspect: PACS)
原発性の隅角閉塞があり、眼圧上昇も、器質的な周辺虹彩前癒着(peripheral anterior synechia: PAS)も緑内障性視神経症も生じていない、すなわち非器質的隅角閉塞(機能的隅角閉塞、appositional angle closureとも呼ばれる)のみの症例。

(2)原発閉塞隅角症(primary angle closure: PAC)
原発性の隅角閉塞があり、眼圧上昇または器質的な周辺虹彩前癒着を生じているが緑内障性視神経症は生じていない症例。

(3)原発閉塞隅角緑内障(primary angle closure glaucoma: PACG)

原発性の隅角閉塞があり緑内障性視神経症を生じた症例。

緑内障診療ガイドライン(第三版)

中心性漿液性脈絡網膜症と冠動脈性心疾患

中心性漿液性脈絡網膜症は、黄斑下に水が溜まり、軽度の視力低下や中心暗点、変視症、小視症などの自覚症状が出現する、眼科の中では比較的よくみられる疾患で、30~50歳代の男性に多いと言われてます。

5年間のコホート研究で、特に同疾患を持つ男性患者では、持たない男性患者に比べ、冠動脈性心疾患の発症頻度が1.72倍であると報告されました。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24169652

眼圧と家族歴

子どもや兄弟同志では、眼圧に正の相関があったという報告です。ちょっとびっくりなのは、配偶者とも正の相関があったというデータで、眼圧は遺伝的要因だけではなく、環境要因も関係するらしいです。

http://archopht.jamanetwork.com/article.aspx?articleID=1813320&utm_source=dlvr.it&utm_medium=facebook&utm_campaign=feed_posts%0A

ただし、過去の眼科疫学調査では、配偶者との関連はなかったとするものもあり、今後の研究が待たれます。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14691154

緑内障手術後の感染症

代表的な緑内障手術である濾過手術(線維柱帯切除術)は、白目の厚い膜(強膜)に房水を逃がすトンネルを作り、白目の表面にある結膜の下に房水を溜める(溜まった場所を濾過胞といいます)方法で、1968年にCairnsにより原法が報告され、種々の改変がなされ、現在でも日本においては主流の緑内障手術になっています。

http://emedicine.medscape.com/article/1844332-overview

眼圧を下げることについては非常に優れた方法ですが、いくつかの合併症があり、その中に濾過胞感染があります。本術式では、眼内と眼外とが、薄い結膜のみで隔てられるため、感染症が起こると、容易に眼内に細菌が侵入し、場合によっては視機能を落としてしまう可能性があります。日本緑内障学会では、濾過手術後の濾過胞感染の発生率を大規模で前向きに調べました。5年後の発症率の報告がOphthalmology誌に掲載されることになりましたが、2.2%ということです。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24424248

緑内障診断における中心視野の評価

一般的な緑内障診断における視野検査は、field(範囲)というよりはthreshold(閾値、感度)をみています。その理由は、緑内障性視野障害の多くは中心30度以内に初発し、ほとんどは孤立暗点から始まり、病期の進行に伴いその部位の感度が低下し、暗点の面積が拡がる、という経過をたどるからです。現在においては、測定時間を短くすること、疲労効果を下げること、周辺部は眼瞼の影響などでエラーが多いことなどから、30度よりも24度以内をみる検査が主流となっているかと思われます。多くの眼科施設で使用されている視野計はハンフリー視野計と呼ばれるもので、特に検査結果の解析能力には定評があります。しかしながら、本機器においては、閾値を検査する測定点が均等に配置されているという大きな問題点があります。本来患者さんの自覚症状を推測する上でも、また、網膜神経節細胞の密度の点からも、測定点は中心に密である必要があります。それを補完するために、10度以内を密に捉える検査も必要となってきます。

本論文では、緑内障性視神経障害を有する患者さんを調べたところ、ハンフリー視野計で24度以内を測定するプログラムでは異常がみつからなかった例でも、10度以内を密に測定するプログラムでは16%に異常がみつかったというものです。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24407153

血液透析と緑内障

血液透析患者の眼圧や緑内障についてはいくつかの報告があります。血液透析中または直後では、眼圧が下がるという報告が多いです。単純に体内水分量が減少するためと考えていいのかもですが、透析中は仰向けで寝るため、眼圧が上がるという報告もあります。

本論文は、血液透析前後での眼圧、血圧、眼潅流圧(眼内血流を示す指標で、眼底血圧―眼圧が大本の数式ですが、報告により若干の補正がなされます。眼底血圧は一般的に全身血圧から評価されます)を調べた報告で、眼圧が上がり、血圧が下がるため、眼潅流圧が下がり、緑内障を悪化させる可能性があるという結論です。

http://archopht.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1774026