「緑内障」カテゴリーアーカイブ

原発閉塞隅角症疑いについて

緑内障診療ガイドライン(第三版)によれば、原発閉塞隅角症疑い(primary angle closure suspect; PACS)とは、「原発性の隅角閉塞があり、眼圧上昇も、器質的な周辺虹彩前癒着(peripheral anterior synechia: PAS)も緑内障性視神経症も生じていない、すなわち非器質的隅角閉塞(機能的隅角閉塞、appositional angle closureとも呼ばれる)のみの症例」であり、米国における緑内障ガイドラインである、preferred practice patterns (PPPs)においても、ほぼ同様の定義です。本疾患群に対する治療については定見がないのですが、PPPsによれば、PACSの自然経過をみた文献がわずかながらあり、四分の一の症例で、5年以内に眼圧上昇またはPASが生じると言うことです。閉塞隅角緑内障は、急性緑内障発作を起こしてしまった場合に、治療にはかなり難渋し、不可逆的な視機能障害も生ずるため、可能であればPACSの時点で治療を行いたいところですが、治療に対する合併症や掛かる費用なども勘案すると、PACSに対する治療は十分な検討が必要と考えます。

久米島スタディにおける原発開放隅角緑内障患者の有病率

2000年~2001年にかけて行われた日本初の緑内障疫学調査である、多治見スタディは、日本の中心に位置する典型的な中小都市である岐阜県多治見市で行われ、所謂日本人を代表する母集団に基づいて行われましたが、2005年~2006年にかけて行われた久米島スタディは、沖縄県の離島での緑内障疫学調査であり、同じ日本で合っても、人口密度や医療環境、気候、年齢、人種の起源(沖縄県は縄文人を起源とした人種が多いとのことです)などが多治見市とは異なっており、過去の報告において、緑内障の有病率が異なっていたことがわかりました。例えば原発閉塞隅角緑内障においては、多治見市に比べて久米島では3.7倍有病率が多かったことがわかりました。

本論文では、原発開放隅角緑内障(広義)の有病率を調べたところ、多治見市では3.9%であったのに対し、久米島では4.0%で、正常眼圧緑内障では各々3.3%と3.6%とで、大きな差がなかったものの、原発開放隅角緑内障(狭義)(眼圧が統計学的な正常範囲を超える原発開放隅角緑内障)では各々0.7%と0.3%、高眼圧症では2.6%と0.6%と、比較的高い眼圧の原発開放隅角緑内障(広義)が多かったと報告しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24746386

プロスタグランジン関連薬と角膜厚

緑内障の発症および病期の進行における最大の危険因子である眼圧を正確に測定するためには、本来眼球内部にセンサーを入れて評価しなければならないのですが、当然のことながら生体眼では不可能なため、多くの眼圧計では角膜を介して眼圧が測定されます。眼圧を測定するうえで問題となるのは、角膜が厚い場合には眼圧が高めに測定されるため、過大評価される可能性があるということで、もちろん逆もしかりです。また、角膜が薄い場合には、視神経を保護する篩状板も脆弱である可能性が指摘され、より緑内障になりやすいとする仮説もあります。

代表的な緑内障治療薬であるプロスタグランジン関連薬では、コラーゲン線維の変性を来すため、角膜厚を薄くさせる効果があると指摘されています。本論文では、4年にわたる長期的な観察でも、角膜厚は薄くなったと報告しています。ただし、眼圧値との相関はなかったとのことです。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24738848

緑内障眼における白内障術後の眼圧上昇について

健常眼にしろ、緑内障眼にしろ、白内障手術後は眼圧が下がる症例が多いことが知られていますが、中には(特に緑内障眼においては)眼圧が上昇してしまう例もみられます。

本論文では、緑内障眼に白内障手術を行ったところ、17%で眼圧上昇がみられ、長い眼軸長や広い隅角、深い前房、男性、術前の緑内障治療薬数、レーザー線維柱帯形成術の既往、術後炭酸脱水酵素阻害剤の内服がなかった例を危険因子として挙げています。

http://www.jcrsjournal.org/article/S0886-3350(13)01525-3/abstract

緑内障と外側膝状体

緑内障は、網膜神経節細胞が障害され、視野障害を生ずる疾患ですが、その網膜神経節細胞から伝達された視覚情報は、脳内の外側膝状体という視覚情報処理を担う部位に至ります。緑内障は眼内の疾患ですが、従来より、外側膝状体も障害を受けることが示唆されています。

高性能のMRIを用いて行われた本論文では、緑内障眼の外側膝状体は健常眼より小さく、緑内障眼の網膜神経線維層厚や黄斑厚と、対応する外側膝状体の大きさが比例することなどを報告しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24722700

早期緑内障眼における中心10度以内の視野欠損

古典的に緑内障性視野欠損のほとんどは中心30度以内に初発する、などの理由から、眼科診療における緑内障診断のための視野検査は中心30度または24度以内を調べることが主流ですが、代表的な視野計である、ハンフリー視野計においては、視機能評価に重要な中心10度以内の測定点が少なく、10度以内のプログラムも行った方がいいのではないか、という論文が多くなっています。

本論文も、中心24度以内で異常がみられた場合、10度でもほとんどに異常がみられ、逆に10度で異常がみられた場合には16%で24度に異常がみられなかったとしています。また、上方視野欠損の方が下方より多かったとしています。

http://archopht.jamanetwork.com/article.aspx?articleID=1810013&utm_source=dlvr.it&utm_medium=facebook&utm_campaign=feed_posts%0A

内服薬と眼圧について

全身疾患に対する内服薬と眼圧との影響について、患者さんからよく質問を受けることがあります。実は代表的な高血圧治療薬である交感神経β遮断薬は、緑内障治療薬としても一般的に用いられており、同剤を内服すれば眼圧は下降しますし、逆に点眼すれば血圧が下がります。

本論文は、各種全身疾患に対する内服薬と眼圧との関係を調べたもので、交感神経β遮断薬や硝酸塩内服で眼圧が下がったことを示しています。一方で、高脂血症に対する薬物であるスタチンや、抗炎症薬であるアスピリンは、交感神経β遮断薬の影響を補正すると、眼圧に影響を与えなかったと報告しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24702754

OCTによる黄斑部での緑内障診断

現在汎用されている光干渉断層計(optical coherence tomograph; OCT)では、網膜の層構造を鮮明に描出することが可能となっているため、各種網膜疾患のみならず、緑内障診断についても大変有用になっています。特に網膜神経節細胞が多数存在する黄斑部での詳細な観察が可能となったことは、緑内障診断に革命をもたらしたと言っても過言ではありません。緑内障は網膜神経節細胞の障害により生じますが、今日、同細胞が関与する、内網状層、網膜神経節細胞層、網膜神経線維層のどの層を評価することが、緑内障診断に有用であるか、議論がなされています。

本論文では、preperimetric glaucoma(眼底検査において緑内障性視神経乳頭所見や網膜神経線維層欠損所見などの緑内障を示唆する異常がありながらも通常の自動静的視野検査で視野欠損を認めない状態)と健常眼を対象として、黄斑部でのOCT(トプコン社製)を用いた緑内障診断を行ったところ、、内網状層と網膜神経節細胞層を併せた解析(GCIP)と、上記の3つの層を併せた解析(GCC)が、網膜神経線維層単独の解析よりも有用であったとしています。すなわち、緑内障早期診断には、GCIPまたはGCCの解析が有用であると結論づけています。

正常眼圧緑内障眼における中心視野障害と血流の自動調節能

緑内障診療ガイドライン(第三版)において、眼圧が統計学的な正常値に留まる正常眼圧緑内障においては、主に「視神経の眼圧に対する脆弱性には個体差があり、特定の眼圧値により原発開放隅角緑内障と正常眼圧緑内障を分離できないため、両者を包括した疾患概念として原発開放隅角緑内障(広義)と」しています。しかしながら、正常眼圧緑内障においては、眼圧以外の種々の因子により視神経障害、視野障害を来している可能性の存在は、現在に至るまで多くの報告があります。視野異常については、正常眼圧緑内障では、原発開放隅角緑内障(広義)と比べてより中心視野が障害を受けやすいと言われています。また、眼循環や全身循環の影響を受けやすいとも言われており、本来あるべき網膜血管の自動調節能(眼圧の上下により血流が変化しにくい)が低下していたり、片頭痛や起立性低血圧が多いことも示唆されています。

本論文では、正常眼圧緑内障眼において、中心視野障害がある例では、周辺視野障害がある例と比べて、心拍数の変動が大きく、上述した自動調節能が低下している可能性を示唆しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24692126

緑内障治療薬に対するアドヒアランスについて

緑内障の治療は、多くの場合、眼圧を下降させるための薬物治療から開始されます。しかしながら、せっかく医師が薬物を処方しても、患者さんが使用しなければ意味がありません。緑内障診療ガイドライン(第三版)によれば、「アドヒアランスとは患者も治療方法の決定過程に参加したうえ、 その治療方法を自ら実行することを指すものと定義され」ますが、高血圧や高脂血症、糖尿病に比べると、緑内障治療薬のアドヒアランスは極めて低いことが言われており、報告によって異なりますが、20%~50%と言われております。

本論文では、緑内障治療薬に対するアドヒアランスを調べた結果、若年、抑うつ状態、薬物治療に何らかの問題がある患者さんのアドヒアランスは悪く、薬物に対する実効感覚や病気が治るという期待が高い患者さんほど良好だったと報告しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24692604