「院長ブログ」カテゴリーアーカイブ

白内障手術後の眼内炎について

白内障手術はほとんどの方が術後良好な視力を得られる、非常に有用な眼科治療の一つですが、非常に稀に眼内炎という重篤な術後感染症のために、視機能を著しく低下させてしまうケースがあります。

本論文は、26人の術者が75318眼の手術を行った結果、眼内炎の発症率は0.03%で、感染症予防として術後フルオロキノロン点眼を行った例では少なく、高眼圧予防として術直後に交感神経β遮断薬点眼を行った例では高率だったと報告しています。なお、術前や術当日の抗生剤投与、術中の前房内や結膜下への抗生剤注射、術中ステロイド注射、切開創の位置とは関連がなかったとしています。

http://www.aaojournal.org/article/S0161-6420(13)01007-5/abstract

早期緑内障眼における中心10度以内の視野欠損

古典的に緑内障性視野欠損のほとんどは中心30度以内に初発する、などの理由から、眼科診療における緑内障診断のための視野検査は中心30度または24度以内を調べることが主流ですが、代表的な視野計である、ハンフリー視野計においては、視機能評価に重要な中心10度以内の測定点が少なく、10度以内のプログラムも行った方がいいのではないか、という論文が多くなっています。

本論文も、中心24度以内で異常がみられた場合、10度でもほとんどに異常がみられ、逆に10度で異常がみられた場合には16%で24度に異常がみられなかったとしています。また、上方視野欠損の方が下方より多かったとしています。

http://archopht.jamanetwork.com/article.aspx?articleID=1810013&utm_source=dlvr.it&utm_medium=facebook&utm_campaign=feed_posts%0A

内服薬と眼圧について

全身疾患に対する内服薬と眼圧との影響について、患者さんからよく質問を受けることがあります。実は代表的な高血圧治療薬である交感神経β遮断薬は、緑内障治療薬としても一般的に用いられており、同剤を内服すれば眼圧は下降しますし、逆に点眼すれば血圧が下がります。

本論文は、各種全身疾患に対する内服薬と眼圧との関係を調べたもので、交感神経β遮断薬や硝酸塩内服で眼圧が下がったことを示しています。一方で、高脂血症に対する薬物であるスタチンや、抗炎症薬であるアスピリンは、交感神経β遮断薬の影響を補正すると、眼圧に影響を与えなかったと報告しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24702754

OCTによる黄斑部での緑内障診断

現在汎用されている光干渉断層計(optical coherence tomograph; OCT)では、網膜の層構造を鮮明に描出することが可能となっているため、各種網膜疾患のみならず、緑内障診断についても大変有用になっています。特に網膜神経節細胞が多数存在する黄斑部での詳細な観察が可能となったことは、緑内障診断に革命をもたらしたと言っても過言ではありません。緑内障は網膜神経節細胞の障害により生じますが、今日、同細胞が関与する、内網状層、網膜神経節細胞層、網膜神経線維層のどの層を評価することが、緑内障診断に有用であるか、議論がなされています。

本論文では、preperimetric glaucoma(眼底検査において緑内障性視神経乳頭所見や網膜神経線維層欠損所見などの緑内障を示唆する異常がありながらも通常の自動静的視野検査で視野欠損を認めない状態)と健常眼を対象として、黄斑部でのOCT(トプコン社製)を用いた緑内障診断を行ったところ、、内網状層と網膜神経節細胞層を併せた解析(GCIP)と、上記の3つの層を併せた解析(GCC)が、網膜神経線維層単独の解析よりも有用であったとしています。すなわち、緑内障早期診断には、GCIPまたはGCCの解析が有用であると結論づけています。

正常眼圧緑内障眼における中心視野障害と血流の自動調節能

緑内障診療ガイドライン(第三版)において、眼圧が統計学的な正常値に留まる正常眼圧緑内障においては、主に「視神経の眼圧に対する脆弱性には個体差があり、特定の眼圧値により原発開放隅角緑内障と正常眼圧緑内障を分離できないため、両者を包括した疾患概念として原発開放隅角緑内障(広義)と」しています。しかしながら、正常眼圧緑内障においては、眼圧以外の種々の因子により視神経障害、視野障害を来している可能性の存在は、現在に至るまで多くの報告があります。視野異常については、正常眼圧緑内障では、原発開放隅角緑内障(広義)と比べてより中心視野が障害を受けやすいと言われています。また、眼循環や全身循環の影響を受けやすいとも言われており、本来あるべき網膜血管の自動調節能(眼圧の上下により血流が変化しにくい)が低下していたり、片頭痛や起立性低血圧が多いことも示唆されています。

本論文では、正常眼圧緑内障眼において、中心視野障害がある例では、周辺視野障害がある例と比べて、心拍数の変動が大きく、上述した自動調節能が低下している可能性を示唆しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24692126

緑内障治療薬に対するアドヒアランスについて

緑内障の治療は、多くの場合、眼圧を下降させるための薬物治療から開始されます。しかしながら、せっかく医師が薬物を処方しても、患者さんが使用しなければ意味がありません。緑内障診療ガイドライン(第三版)によれば、「アドヒアランスとは患者も治療方法の決定過程に参加したうえ、 その治療方法を自ら実行することを指すものと定義され」ますが、高血圧や高脂血症、糖尿病に比べると、緑内障治療薬のアドヒアランスは極めて低いことが言われており、報告によって異なりますが、20%~50%と言われております。

本論文では、緑内障治療薬に対するアドヒアランスを調べた結果、若年、抑うつ状態、薬物治療に何らかの問題がある患者さんのアドヒアランスは悪く、薬物に対する実効感覚や病気が治るという期待が高い患者さんほど良好だったと報告しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24692604

原発閉塞隅角症眼の脈絡膜厚について

緑内障診療ガイドライン(第三版)によれば、原発閉塞隅角症とは、「原発性の隅角閉塞があり、眼圧上昇または器質的な周辺虹彩前癒着を生じているが緑内障性視神経症は生じていない症例」と定義されており、すなわち原発閉塞隅角緑内障になる一段階手前の状態と定義しています。一方、米国眼科学会や欧州緑内障学会の緑内障ガイドラインの定義では、包括的に原発閉塞隅角症というカテゴリーがあり、その中に原発閉塞隅角緑内障が定義されています。本論文は海外論文ですので、後者の定義に準じて記載します。

原発閉塞隅角症は、水晶体の膨隆や前方移動、虹彩厚の厚み、毛様体の腫脹や前方回転、ぶどう膜滲出などにより惹起されると考えられており、その中で、脈絡膜の厚みの増加も示唆されています。本論文では、年齢や眼軸長、性差を補正したうえで、原発閉塞隅角症では、黄斑部の脈絡膜厚が健常眼に比して厚かったと報告しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24697943

正常眼圧緑内障患者の長期経過

本論文では、正常眼圧緑内障411症例623眼を10年以上経過観察できた症例のうち(初診時は自覚症状なし)、視覚障害(WHOの基準に準じてますが、失明は視力0.05未満または中心視野10度以内、ロービジョンは視力0.3未満または中心視野20度以内と定義)が20症例16眼(失明8眼、ロービジョン12眼)であったと報告しています。視覚障害の最大の危険因子は初診時の視野障害の程度とのことです。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24698142