「緑内障」カテゴリーアーカイブ

眼科医による立体眼底写真を用いた緑内障診断

緑内障を診断するうえで入口となる検査は、多くは眼底検査であると思われますが、中でも立体眼底写真による診断は有用であることが知られています。しかしながら、その診断の正確度(正常を正常、異常を異常と診断する割合)は約80%と言われています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20045571

本論文では、立体眼底写真検査結果を用いて、同一患者の結果を1つ含む4つの視野検査結果から正しいものを眼科医に選ばせたところ、正確度は58.7%で、間違った多くのケースでは、視野障害を過大評価していたという結果でした。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23809273

白内障手術と緑内障手術

緑内障の手術適応がある患者さんは、白内障も有していることが多く、手術を行うとしたらどちらを先に行うべきか判断が難しいことがあります。白内障手術を先に行うメリットとして、術者としては浅前房になりにくいため、緑内障手術がやりやすいことが挙げられます。また、緑内障手術後の眼圧コントロールが安定していない時に白内障手術を行ってしまうと、折角の緑内障手術の効果が落ちてしまうことがあります。緑内障手術を先に行うメリットとしては、白内障手術創がなく、術後炎症が少なくてすむことが考えられ、良好な眼圧コントロールが得られることと思います。ただし、若干その後の白内障手術が難しくなることがあります。

本論文では、白内障手術が行われた緑内障(開放隅角緑内障)患者さんに対する緑内障手術(濾過手術)は、白内障手術を行っていない患者さんと比べると、眼圧コントロールが悪くなると報告しています。

http://archopht.jamanetwork.com/article.aspx?articleID=1774027&utm_source=dlvr.it&utm_medium=facebook&utm_campaign=feed_posts%0A

近視眼における網膜の厚みと緑内障について

近視とは、「調節力を働かせない状態で、平行光線が網膜より前に焦点を結んでしまう状態」で、多くは軸性近視に属し、正視の人より眼球が大きい(眼軸長が長い)ため、網膜が焦点より後ろにある状態を言います。すなわち近視眼は、風船を大きく膨らませた状態に似ていますので、風船のゴムが薄くなるように、眼球の壁、ひいては網膜も薄くなっていると多くの報告で立証されています。一方、緑内障においては、網膜神経節細胞が障害されるため、その細胞に関わる網膜の層が薄くなります。近視は緑内障のリスクファクターであるため、緑内障眼において網膜が薄いという検査結果がでた場合には、近視のためか、緑内障性視神経障害のためか、判断が付きにくいことがあります。

本論文では、正常眼では、眼軸長が長いほど、黄斑部における網膜神経節細胞に関わる網膜層が薄くなっていたという報告です。今後、網膜の厚みを調べる眼科検査機器においては、近視の程度を補正するプログラムが必要かもしれません。

http://link.springer.com/article/10.1007/s10384-013-0292-2?wt_mc=alerts.TOCjournals

急性緑内障発作後の白内障手術

急性緑内障発作(急性原発閉塞隅角症)は、急激な視力低下とともに、頭痛や嘔気などを伴うこともある、重要な眼科的救急疾患の一つです。本疾患の治療として、視力を向上させる意味でも、房水流出を良くして眼圧を下げる意味でも、白内障手術は推奨されている治療法です。白内障手術は、術前に種々の眼科的検査を行ったうえで、水晶体を取り除いて眼内レンズを挿入する術式ですが、眼内レンズの度数は術前の眼科的検査の結果を勘案して決定されます。通常の症例でも、術後の屈折検査において術前に予想された度数に合致せず、強い度数の眼鏡を処方する例もありますが、本疾患では、そのようなことがより多く生じると言われています。

本論文では、急性原発閉塞隅角症に対する白内障手術について、術後の屈折の度数が異なってしまう原因として、本疾患の罹病期間と関連すると報告しました。よって、本疾患においては、早急な眼圧下降治療が必要となります。

http://link.springer.com/article/10.1007/s10384-013-0285-1?wt_mc=alerts.TOCjournals

原発閉塞隅角症

以前にも述べました通り、「緑内障の本態は進行性の網膜神経節細胞の消失とそれに対応した視野異常である緑内障性視神経症(glaucomatous optic neuropathy: GON)」です。そのため、従来の(房水の流出路である隅角が狭いタイプの緑内障である)原発閉塞隅角緑内障と呼ばれていたカテゴリーの中で、視神経が障害を受けていない一群を「原発閉塞隅角症」と呼ばれるようになりました。以下に緑内障診療ガイドラインの記載を示します。

(1)原発閉塞隅角症疑い(primary angle closure suspect: PACS)
原発性の隅角閉塞があり、眼圧上昇も、器質的な周辺虹彩前癒着(peripheral anterior synechia: PAS)も緑内障性視神経症も生じていない、すなわち非器質的隅角閉塞(機能的隅角閉塞、appositional angle closureとも呼ばれる)のみの症例。

(2)原発閉塞隅角症(primary angle closure: PAC)
原発性の隅角閉塞があり、眼圧上昇または器質的な周辺虹彩前癒着を生じているが緑内障性視神経症は生じていない症例。

(3)原発閉塞隅角緑内障(primary angle closure glaucoma: PACG)

原発性の隅角閉塞があり緑内障性視神経症を生じた症例。

緑内障診療ガイドライン(第三版)

眼圧と家族歴

子どもや兄弟同志では、眼圧に正の相関があったという報告です。ちょっとびっくりなのは、配偶者とも正の相関があったというデータで、眼圧は遺伝的要因だけではなく、環境要因も関係するらしいです。

http://archopht.jamanetwork.com/article.aspx?articleID=1813320&utm_source=dlvr.it&utm_medium=facebook&utm_campaign=feed_posts%0A

ただし、過去の眼科疫学調査では、配偶者との関連はなかったとするものもあり、今後の研究が待たれます。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14691154

緑内障手術後の感染症

代表的な緑内障手術である濾過手術(線維柱帯切除術)は、白目の厚い膜(強膜)に房水を逃がすトンネルを作り、白目の表面にある結膜の下に房水を溜める(溜まった場所を濾過胞といいます)方法で、1968年にCairnsにより原法が報告され、種々の改変がなされ、現在でも日本においては主流の緑内障手術になっています。

http://emedicine.medscape.com/article/1844332-overview

眼圧を下げることについては非常に優れた方法ですが、いくつかの合併症があり、その中に濾過胞感染があります。本術式では、眼内と眼外とが、薄い結膜のみで隔てられるため、感染症が起こると、容易に眼内に細菌が侵入し、場合によっては視機能を落としてしまう可能性があります。日本緑内障学会では、濾過手術後の濾過胞感染の発生率を大規模で前向きに調べました。5年後の発症率の報告がOphthalmology誌に掲載されることになりましたが、2.2%ということです。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24424248

緑内障診断における中心視野の評価

一般的な緑内障診断における視野検査は、field(範囲)というよりはthreshold(閾値、感度)をみています。その理由は、緑内障性視野障害の多くは中心30度以内に初発し、ほとんどは孤立暗点から始まり、病期の進行に伴いその部位の感度が低下し、暗点の面積が拡がる、という経過をたどるからです。現在においては、測定時間を短くすること、疲労効果を下げること、周辺部は眼瞼の影響などでエラーが多いことなどから、30度よりも24度以内をみる検査が主流となっているかと思われます。多くの眼科施設で使用されている視野計はハンフリー視野計と呼ばれるもので、特に検査結果の解析能力には定評があります。しかしながら、本機器においては、閾値を検査する測定点が均等に配置されているという大きな問題点があります。本来患者さんの自覚症状を推測する上でも、また、網膜神経節細胞の密度の点からも、測定点は中心に密である必要があります。それを補完するために、10度以内を密に捉える検査も必要となってきます。

本論文では、緑内障性視神経障害を有する患者さんを調べたところ、ハンフリー視野計で24度以内を測定するプログラムでは異常がみつからなかった例でも、10度以内を密に測定するプログラムでは16%に異常がみつかったというものです。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24407153

血液透析と緑内障

血液透析患者の眼圧や緑内障についてはいくつかの報告があります。血液透析中または直後では、眼圧が下がるという報告が多いです。単純に体内水分量が減少するためと考えていいのかもですが、透析中は仰向けで寝るため、眼圧が上がるという報告もあります。

本論文は、血液透析前後での眼圧、血圧、眼潅流圧(眼内血流を示す指標で、眼底血圧―眼圧が大本の数式ですが、報告により若干の補正がなされます。眼底血圧は一般的に全身血圧から評価されます)を調べた報告で、眼圧が上がり、血圧が下がるため、眼潅流圧が下がり、緑内障を悪化させる可能性があるという結論です。

http://archopht.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1774026

高血圧治療薬と緑内障

緑内障患者さんから、「高血圧治療薬を服用していますが、大丈夫でしょうか?」と聴かれることがあります。以前にも述べましたように、高血圧は高眼圧に関連し、低血圧は緑内障の危険因子と言われていて、血圧を下げることが緑内障にとっていいことなのか悪いことなのか不明であると言えます。また、一般的には高血圧治療は利益の方が不利益を上回る場合が多く、緑内障に影響を与えるとしてもわずかですので、「そのまま服用していて下さい」とお話しすることが多いです。

院長が大学病院眼科の緑内障外来にいた頃は、Ca拮抗薬が眼血流を向上させ、神経保護にも効くというデータがいくつか出ていたため、血圧が下がらないタイプのCa拮抗薬を緑内障治療に使用していたことがあります。しかしながら、その後の調査で、Ca拮抗薬はかえって緑内障を悪化させるというデータが出て、そのような治療はすっかり廃れてしまったように思えます。今でも、Ca拮抗薬の有効性を示すデータも出ていますし、まだまだ研究が必要な分野と言えます。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17568677