「眼についての最新情報」カテゴリーアーカイブ

乳頭出血と篩状板

乳頭出血とは、視神経乳頭近傍にみられる緑内障ではよく観察される所見で、乳頭出血がみられる場合、その近傍の網膜神経線維層欠損が後に起こり、その部に対応した視野障害をきたすことが多いことはよく知られていることです。しかしながら、乳頭出血がなぜ生じるかは不明で、出血が視神経障害を引き起こすのか、視神経障害を起こす時に血管が障害されるのかもはっきりとわかっていません。

近年、enhanced depth imaging spectral domain optical coherence tomography という方法を用いることで、視神経の支持組織である篩状板の観察が生体眼で可能となっています。本論文では、乳頭出血を伴った原発開放隅角緑内障(POAG)眼では、伴わないPOAG眼と比較して、前部篩状板の後方湾曲や篩状板の横ずれなどの変化が多く観察され、しかもそれらの変化は乳頭出血部位の近傍であったことを示し、そのため、篩状板の形状の変化により毛細血管が破綻し、乳頭出血が生ずると仮説しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24677111

網膜厚とパーキンソン病

パーキンソン病は神経変性疾患の一つであり、大脳や脳幹に属する黒質線条体の異常によって生じると言われています。本疾患では、眼科における診断機器の性能の向上により、緑内障と同様、網膜神経線維層にも異常がみられるという報告がいくつかなされています。

本論文では、網膜神経線維層などの網膜の構造を観察する光干渉断層計(OCT)で、パーキンソン病患者の網膜厚を調べたところ、健常者に比べると網膜神経線維層厚や黄斑部の網膜厚が薄く、その程度はパーキンソン病の重症度に相関していたと報告しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24276697

先進国における失明原因の変化

1990年と2010年の東~中央ヨーロッパにおける失明者の割合と原因の変化を調べた論文です。高齢化にもかかわらず、失明者は0.2%~0.1%に、視覚障害者は1.6%~1.0%に低下しました。失明原因は1990年では白内障が最多でしたが、2010年では、高所得の国で黄斑変性と屈折異常が最も多かったとのことです。緑内障や糖尿病網膜症は4位から5位で、トータルで考えると、白内障の低下と黄斑変性の増加が際立っているとのことでした。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24665132

原発開放隅角緑内障発症の危険因子

4316人に対して行われた6年間に渡る南インドでのコホート研究によると、緑内障発症率は2.9%で、ベースライン時の年齢のほか、都会生活者、高眼圧、近視、眼軸長が危険因子として挙げられました。特にベースライン時に薄い角膜厚と高眼圧がある例では緑内障になりやすいと報告しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24650554

緑内障手術と白内障手術

緑内障にしろ白内障にしろ高齢になるほど有病率が高くなるため、両疾患が合併している例は多く見受けられます。両者に手術治療が必要な場合、どちらを先に行うか、あるいは同時手術にするかには、議論が分かれるところです。代表的な緑内障手術である濾過手術を先に行う場合には、眼圧コントロールが良好で、手術を行う場所を任意に決定できるというメリットがある反面、術後浅前房になりやすく、早期に白内障手術を行った場合に、眼圧コントロールが落ちてしまうというデメリットがあります。白内障手術を先に行う場合には、緑内障術後浅前房になりにくいというメリットがある反面、手術する場所を白内障手術を行った場所から離さないといけないデメリットがあります。同時手術の場合には、患者さんの負担は少なくなりますが、どちらの手術の効果もやや落ちる傾向があると考えられます。

本論文では、眼圧コントロールが不良な緑内障眼に対する白内障術後、眼圧は下がったものの、多くの例で下がるレベルは不十分だったため、緑内障手術が必要だったと報告しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24653751

緑内障眼におけるOCT所見と中心視野所見

緑内障診療ガイドライン(第三版)によれば、OCTのような眼底三次元画像解析装置は、「緑内障性眼底変化を標準化された方法」として用いるのに「測定精度が高く、測定再現性も良好で、かつ操作が容易なコンピュータを用いた眼底画像解析装置の利用は有望な解決法の一つ」としています。一方で、このような検査機器において、「視神経乳頭形態や神経線維層厚には個人差があり、緑内障眼と正常眼の間で測定された数値のオーバーラップがみられることや、解析装置の測定精度の限界などから、緑内障と正常を完全に分別することは未だ成功していない」とも書かれています。原則的にOCTの緑内障診断はスクリーニングに適しているものの、結局は眼圧検査、視野検査などの検査が必要となります。ただし、過剰な検査も患者さんの負担になりますので、避けたいところです。

本論文では、緑内障診療において通常行われる中心24度内での視野検査で正常と判定されたものの、中心10度以内の視野検査で異常点がみつかった例で、OCTを評価すると、やはり異常があったとしています。中心10度以内の視野検査を行うか否かを判断するうえで、OCT検査は有用と言えます。

http://link.springer.com/article/10.1007/s10384-013-0298-9?wt_mc=alerts.TOCjournals

エストロゲンと緑内障

以前にも報告を紹介しましたが、女性の閉経後のホルモン投与と緑内障には関連があります。網膜神経節細胞にはエストロゲンレセプターがあり、エストロゲンが神経保護の役割を担っている可能性があることが示唆されています。また、眼圧下降効果もあるという報告もあります。

本論文においても、閉経後の女性に対するエストロゲンが投与された例では、緑内障の有病率が低かったことを示唆しています。

https://archopht.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1815980

緑内障と眼灌流圧

原発開放隅角緑内障(広義)の中で、特に正常眼圧緑内障については、眼循環の影響が病因のひとつとして挙げられています。古典的に正常眼圧緑内障では、(眼圧が健常人の正常範囲を超える)原発開放隅角緑内障(狭義)と比較すると、下方の視野障害が起きやすいと言われており、また、夜間や早朝に低血圧を生じていたり、血圧の変動が大きかったりする患者さんが多いと言われ、そのため正常眼圧緑内障の一部に、虚血性視神経症が含まれているのではないかと示唆されてきました。

本論文では、原発開放隅角緑内障(広義)では、眼灌流圧(眼底血圧―眼圧がもとの式で、一般的に眼底血圧は全身血圧から換算されます)の変動の大きさと視神経障害、視野障害の程度に相関があったと報告しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24643517

緑内障眼の中心視野障害における進行判定法について

緑内障の診断や病期の進行判定において、視野検査は欠かすことのできない検査です。緑内障診療における一般的な視野検査は、ハンフリー視野計によって行われ、中心視野30度以内または24度以内の光に対する感度を精査します。しかしながらこれらのプログラムでは、視機能に関わる中心10度以内を精査することが難しく、また、中心24度以内のプログラムで正常と判定されても中心10度以内のプログラムで異常と判定される例もみられることが近年報告されるようになってきました。それに伴い、中心10度以内の病期の進行判定法を確立する必要性が出てきました。

本論文では、中心10度以内の各測定点をいくつかのセクターに分類し、セクター内の平均閾値の変化をプロットする方法を用いて、新たな進行判定法を確立しました。いずれこのような方法が一般臨床の場で活用されるかと思われます。

http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0161642013009433?cc=y

 

OCTによる黄斑部での緑内障診断

光干渉断層法(Optical Coherence Tomography; OCT)は、光の干渉現象を応用して、主として眼底の微細な構造を、高解像度の断層像として表す画像解析法です。従来のOCTは光の干渉を実空間(時間領域)で行うものでしたが、近年多くの施設で用いられているOCT装置、spectral-domain OCTは、光波の干渉をフーリエ空間で行うことにより、時間分解能および空間分解能が著しく向上し、より詳細な眼底構造を観察することが可能になりました。緑内障診断においても、網膜神経節細胞が集中している黄斑部を微細に解析することにより、より早期での緑内障発見が可能となりつつあります。

本論文では、緑内障眼とpreperimetric glaucoma(眼底に緑内障性変化がみられるものの、視野に異常所見がみられない状態)眼とで黄斑部の解析をしたところ、平均2.54年の経過観察期間で、両眼とも下方の黄斑厚の菲薄化の進行が観察され、その程度はpreperimetric glaucoma眼より、緑内障眼で強かったことを報告しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24633086