緑内障の発症および病期の進行における最大の危険因子は眼圧ですが、古典的に特に正常眼圧緑内障において、眼循環障害の影響も危険因子の一つとして考えられています。特に夜間低血圧は虚血性視神経症の発症のリスクのほか、その病態の類似性のために緑内障との関連が示唆されています。
本論文では、そのような一日の血圧変動のみならず、日中の血圧変動が緑内障性視野障害進行の危険因子であると報告しています。
「緑内障」カテゴリーアーカイブ
乳頭出血と血小板機能について
視神経乳頭出血は、緑内障性変化を持つ視神経乳頭にかなり特異的に生じ、健常者ではまれで(0~0.21%)、特に反復してみられた場合は病的意義が高く、また、乳頭出血の頻度は他の緑内障眼に比して正常眼圧緑内障眼において高いことが知られています。一般的に乳頭出血は数か月で消失するため、観察できない例も多いと言われています。乳頭出血が循環不全によって生ずるか、網膜神経節細胞の欠損に伴って物理的に血管が破綻するかについては、まだ結論が出ていませんが、光干渉断層計による観察などで、後者によるものではないか、という説が優勢のようです。
本論文では、正常眼圧緑内障例において、乳頭出血を有する例では、血小板機能が低下しており、そのため出血が長引き、観察されやすいのでは?と結論づけています。
対光反射と緑内障
対光反射は、網膜神経節細胞を介して瞳孔の直径を光の強さにより変化させ、網膜に届く光の量を調節する反射であり、各種網膜疾患や視神経疾患などで反射が減弱することが知られています。緑内障は網膜神経節細胞の消失が病態の本質であるため、理屈上は対光反射の変化が生じうると考えられますが、末期になるまでは、一般臨床では観察しづらいのが現状です。
近年、内因性光感受性網膜神経節細胞の働きに注目が当たっているようで、睡眠などの概日リズムを司っていることが示唆されており、また、緑内障においては早期に障害されることが言われています。一方、内因性光感受性網膜神経節細胞は青色の光に感受性が高いことも示唆されています。
本論文は、緑内障症例に対して青色の光を用いた対光反射を調べた結果、比較的早期に、かつ病期の強さに応じて対光反射の減弱がみられたことを報告しており、内因性光感受性網膜神経節細胞の消失がその主因であることを示唆しております。
Pupillary Responses to High-Irradiance Blue Light Correlate with Glaucoma Severity
原発開放隅角緑内障の有病率
本報告は、過去81編の研究(37カ国、216214人の対象者、5266人の原発開放隅角緑内障例)をまとめたものですが、原発開放隅角緑内障の有病率は、人種では黒人が最も多く、60歳で5.2%、80歳で12.2%であり、男性は女性より有病率が高かったとのことです。また、全世界の有病率は2.2%と推測されるということです。
血中微量金属と緑内障
人体に必須である栄養素が過剰であったり、毒性のある物質が体内に多く蓄積する場合、種々の疾患を発症させることが示唆されていますが、本論文では、血中微量金属と緑内障との関係を調べた結果、血中マンガン濃度とは負の、水銀濃度とは正の相関があり、これらの結果は、緑内障の病態解明に寄与されることが期待されると報告しています。
Association Between Body Levels of Trace Metals and Glaucoma Prevalence
緑内障薬物治療に対するアドヒアランス低下の原因について
緑内障診療ガイドライン(第三版)によれば、アドヒアランスとは、「患者も治療方法の決定過程に参加した上、 その治療方法を自ら実行すること」であり、緑内障治療を成功させるためにはアドヒアランスを向上させることが極めて重要であると考えられています。
アドヒアランス低下の原因に対する論文はいくつかありますが、最新の本論文によりますと、自己効力感(Wikipediaより、自分がある状況において必要な行動をうまく遂行できるかという可能性の認知)の低下、点眼の難しさ、さし忘れ、点眼スケジュールの難しさ、が要因として挙げられました。
The Most Common Barriers to Glaucoma Medication Adherence: A Cross-Sectional Survey.
日本眼科学会雑誌に論文が掲載されました
昨年6月にやおえだ眼科として旧医院から新医院に移転開業させて頂きましたが、その際、当院の緑内障患者の眼圧が下降していることに気づき、統計学的検討を加えたうえで院長が日本眼科学会雑誌に結果を投稿させて頂きました。その結果、このたび日本眼科学会雑誌に掲載されることとなりました。関係各位には深く御礼申し上げます。なお、眼圧が下降した理由として、何らかの心理物理学的ストレスの軽減が考えられました。
緑内障眼に対する白内障手術について
よく「緑内障ですが、白内障手術はできますか?」という質問を受けます。緑内障で障害を受けた視野は改善されませんが、濁った水晶体を摘出して透明な人口のレンズを挿入するため、視機能を向上させるためには寧ろ積極的な適応があります。かつ多くの症例で、白内障手術後に眼圧が下がるため、緑内障治療の点でも有利に働くケースが多いと言えます。
本論文では、緑内障眼に白内障手術を行った場合、原発開放隅角緑内障では術後13%、落屑緑内障では20%、原発閉塞隅角緑内障では30%の眼圧下降が得られたと報告しています。よって、白内障が強く、薬物で良好な眼圧コントロールが得られている原発開放隅角緑内障例、落屑緑内障例や、(眼圧上昇のメカニズムを解消させるためにも)眼圧コントロールに関わらず、原発閉塞隅角緑内障例では、白内障手術を行うことを推奨しています。
The Effect of Phacoemulsification on Intraocular Pressure in Glaucoma Patients
睡眠と緑内障について
近年睡眠時無呼吸症候群と緑内障についての研究が盛んになされ、おそらく無呼吸時の虚血や、治療の一環であるcpapによる眼圧上昇などが原因と考えられています。
緑内障の本態は網膜神経節細胞の消失ですが、網膜神経節細胞の中で光感受性神経節細胞と呼ばれる一群があり、この細胞は、固有の視物質であるメラノプシンを持ち、概日周期の設定や調整に関与すると考えられています。本論文では、緑内障において光感受性神経節細胞が障害されるため、緑内障により睡眠障害を来す可能性を示唆しています。
新しいプロスタグランジン関連薬について
多くの緑内障について、治療の第一選択は薬物治療であり、その第一選択薬としてプロスタグランジン関連薬が用いられることは、各国の緑内障診療ガイドラインでも記載がなされている通りです。この度、新しいプロスタグランジン関連薬である、VESNEO (latanoprostene bunod)が治験の第Ⅲ層に至り、世界中で最も使用されているlatanoprostよりも高い眼圧下降効果と低い副作用が示されました。