体重(body mass index)と眼圧は関係があります。体重が重ければ眼圧は高くなります。一方、前回述べましたように、立ったり座っていたり、よりも寝た体勢の方が眼圧が高くなります。
では、体重が体位による眼圧変化に影響を与えるでしょうか?最新の論文で、体重と体位には関係がみられなかったとする報告がありました。
体重(body mass index)と眼圧は関係があります。体重が重ければ眼圧は高くなります。一方、前回述べましたように、立ったり座っていたり、よりも寝た体勢の方が眼圧が高くなります。
では、体重が体位による眼圧変化に影響を与えるでしょうか?最新の論文で、体重と体位には関係がみられなかったとする報告がありました。
緑内障患者さんに、「日常生活で気をつけることはありますか?」とよく聴かれます。いろいろな行為により眼圧が変動することはよく知られています。例えば仰向けになると眼圧が上がります。しかしながら「睡眠時間を短くしましょう」という訳にもいかず、通常の生活における眼圧変動以上に、緑内障治療薬の効果が勝っていると考え、「目薬をきちんとさすこと、それだけでも大変なことなのですが、一番有用です」とお答えしています。
緑内障の大家Ritch先生の名著で1996年を最後に改訂がなされていないとは思いますが、膨大な緑内障の知見を網羅していたThe Glaucomasによれば、眼圧が一番上がる体位は逆立ちです。しかしながら、一日中逆立ちをするわけではないので、あまり問題になることはないはずです。
一方、ヨガについては、最大で20mmHg 以上の眼圧変化があり、長い時間同じ姿勢をとることがあると思われ、緑内障患者さんは注意すべきと思います。
「眼圧と血圧って関係がありますか?」と聴かれることがよくあります。実は関係はあります。わずかですが、血圧が高いほど眼圧も高くなるという報告があります。しかしながら重要なことは、緑内障の危険因子に低血圧があることがよく知られています。血圧が低ければ、眼循環が悪くなり、視神経に栄養を与えることができなくなるため、視神経障害が強くなる、という仮説があります。緑内障が眼圧以外の種々の因子によって成立しているであろうことの根拠でもあります。
いずれにしても、まだまだ知見が足りない分野であり、緑内障に対する血圧の関係はあったとしてもわずかですので、後期の正常眼圧緑内障症例のほかの方には、あまり気にする必要がない旨、お話しております。
緑内障発症のリスクファクターとして家族歴があることはよく知られています。また、ひとことで「緑内障」と呼びますが、原発緑内障、続発緑内障、発達緑内障など、その発症機序に応じて、様々な病型があります。
本研究はそれら様々な病型に家族歴が関係するのかを調べたもので、全ての緑内障病型有意にに家族歴があったということで、特に母または兄弟が緑内障の方は要注意ということでした。近しい方に緑内障患者がいる場合には、症状がなくとも一度眼科での検査を行うことをお勧めします。
医者が処方した投薬を患者がきちんと服用しているか、点眼しているか、を示す用語に、最近はアドヒアランスを用いるようになったことは以前お話しました。アドヒアランスは、「医師からの一方的な治療指針を患者が守るのではなく、患者も治療方法の決定過程に参加した上、 その治療方法を自ら実行する」ことです。一方persistenceという用語があります。アドヒアランスは「薬物を使用している状態であり、途中中断があってもいい」というニュアンスがありますが、persistenceは、「連続して薬物を使用している状態」を言います。緑内障治療薬におけるアドヒアランスは20-50%と言われていますが、persistenceは10%を下回ることがあると言われています。
緑内障の90%が病院にかかっていないことも併せると、(緑内障であっても治療が必要でない例も実は多いのですが)、10%×10%で、きちんと治療がなされている緑内障患者さんは、1%しかいない計算になります。
アメリカ眼科学会が発行している各種疾患のガイドラインpreferred practice patternsによると、原発開放隅角緑内障(広義)の危険因子は下記としています。
・眼圧レベル ・高齢 ・緑内障家族歴 ・アフリカ系人種またはラテン/ヒスパニック系人種 ・薄い角膜厚 ・低い眼潅流圧 ・Ⅱ型糖尿病 ・近視 ・遺伝子異常
いくつの眼圧で「緑内障」と診断するかの規定はないのは、日本も同じです。代表的な眼圧計であるGoldmann眼圧計を用いた感度(緑内障患者を緑内障と診断する力)46%、特異度(正常者を正常と診断する力)95%と言われており、眼圧値で緑内障を診断することは困難と言えます。
昨日同級の眼科女医さんが、緑内障についてのお話を某地方局でされました。非常にわかりやすく的確で、感銘を受けました。その中で出てきた用語、「正常眼圧緑内障」は、医者側としては患者さんに啓蒙したい用語なのですが、たぶん患者さんとしては却ってとっつきにくいかもです。「正常眼圧」って何か? たまに患者さんから質問を受けるのですが、簡単に言えば正常人を100人集めたら中央の95人が含まれる眼圧のことで、統計学的に規定されているものです。以前にも似たようなお話をしましたが、病気はある一定値を超えたから生じるというわけではなく、どの値で生じるかは人それぞれです。実際に眼圧が高い原発開放隅角緑内障(狭義)と正常眼圧緑内障を包括した用語、原発開放隅角緑内障(広義)においては、実に多くの正常眼圧患者(日本においては90%以上と言われてます)が含まれます。緑内障患者全体でみても70%以上とも言われています。
では、「正常眼圧」はどのくらいか? 日本における唯一の疫学調査である多治見スタディによれば、「右眼眼圧は14.6±2.7 mmHg(平均値±標準偏差)、左眼眼圧は14.5±2.7 mmHg(同)であり、正常眼圧を平均±2標準偏差で定義すると、正常上限は19.9~20.0 mmHg」となり、したがって「日本人において眼圧20 mmHgを境に原発開放隅角緑内障と正常眼圧緑内障の二臨床病型に分けることには一定の合理性」があります。
過去には「低眼圧緑内障」とも呼ばれていた一群ですが、病態が違う緑内障が含まれる可能性があることと、統計学的に正常眼圧であることから、「正常眼圧緑内障」という用語は院長が医者になりたての頃(20年近く前)に広まりましたが、現在においては、「正常」という用語が却って混乱を招くという声もあり、特に欧米においては比較的眼圧が低いという意味で、「low pressure glaucoma」という用語が復活しつつあるようです。患者さんには、「体温が37度でだるくなる人と、ぴんぴんする人がいるように、眼圧も高くても失明しない人もいれば逆の人もいる」などの説明をさせていただいてます。
緑内障患者さんの経過を長くみていると、かすみ目を訴える方が出てきます。「全体的にぼやける」の症状の場合は、多くは白内障が原因です。緑内障は視野全体が障害を起こすことはめったになく、局所的に見えないところができて、それが拡がっていくパターンがほとんどです。白内障は主に加齢に伴い誰でも生じ、徐々に進行していきます。「かすみ目は白内障が原因です」とお話しすると、「緑内障でも白内障になるの?」「緑内障があると白内障手術ができないって聴くけど?」などのご質問を受けることがあります。「白内障は水晶体という目のレンズの病気で、緑内障は視神経の病気ですから、名前が似ていても違うものですし、緑内障があっても白内障手術はほとんど問題なくできますよ」と、説明したいところなのですが、水晶体は加齢とともに大きくなり、前方に移動することがあり、眼内の房水循環を妨げ、眼圧を上げることがあるので、「緑内障治療の一環として白内障手術を提案します」とお話するのが非常にややこしいです。緑内障と白内障、名前が似ていて印象に残りやすいのはいいのですが、混同してしまうのが、悩ましいところです。
正直に点眼状況を教えて下さる患者さんが結構います。ありがたいです。上記の一言の後に、「翌日に追加してさした方がいいですか?」と聴かれることがあります。状況に応じて言い方を変えてますが、基本的に「翌日も決められた方法で点眼して下さい」とお話しています。理由は二つ。一つは多くの点眼液には防腐剤が含まれているのですが、これが目の、特に表面にある角膜を障害させることがあり、多く点眼するとそのリスクが高まるからです。二つ目は、緑内障治療薬についてですが、プロスタグランジン関連薬については、過剰な点眼が眼圧下降効果を落としてしまうことが知られています。また、交感神経β遮断薬などについても、微妙なバランスで眼圧を下げている面があり、症例によっては、かえって濃度を上げると眼圧下降効果に影響を及ぼす可能性があると考えています。ただし、炭酸脱水酵素阻害薬である、ブリンゾラミドは一日二回点眼ですが、効果が不十分な場合、三回点眼も許されています。Overdoseが眼圧に及ぼす影響について、知見が少ないのが現状です。
昨日院長はいわゆるコメディカルの方々に招かれて、講演をしてきました。その中で、「Preperimetric glaucomaに対する治療はどうしてますか?」という質問がありました。「Preperimetric glaucoma」とは、緑内障診療ガイドライン(第3版)によれば、「眼底検査において緑内障性視神経乳頭所見や網膜神経線維層欠損所見などの緑内障を示唆する異常がありながらも通常の自動静的視野検査で視野欠損を認めない状態」と書かれています。提唱したのは、確かJonas先生という緑内障の権威だったかと思います。アメリカ眼科学会においては「緑内障疑い」と定義しているカテゴリーに入ります。緑内障は早期発見早期治療が必要としながらも、「Preperimetric glaucoma」に対する治療は慎重に考えるべきと思います。確かに緑内障は網膜神経節細胞の死から失明に至る連続体と考えれば、「Preperimetric glaucoma」の時点で治療を開始すれば、視野障害(視機能障害)を生じさせる危険性を軽減させるとも言えます。しかしながら、緑内障に類似した他の疾患である可能性もあり、何も治療しなくても視野障害が一生起きない可能性もあるからです。その場合、「緑内障疑い」として、治療薬を使わず、経過観察を行います。
「緑内障の疑いがありますから、経過をみさせて下さい」と医者から言われた場合、一般的には、「緑内障と診断できない」とか「治療をしてくれない」のではなく、「何もしなくても視機能障害を起こさない可能性が高い」という場合が多いと思われます。医者としては、治療を開始するのは容易ですが、一度開始したら、ほぼ一生治療を続けなければなりませんので、「治療をいつから行うか?」については慎重にならざるをえないという事情があります。