緑内障の発症および病期の進行の最大の危険因子は眼圧であることが知られています。一方で、実は反対眼が最大の危険因子という説もあります。すなわち、片眼が緑内障であれば、いずれ反対眼が緑内障になり、片眼の病期が進行すれば、反対眼もいずれ進行することがある程度証明されています。
本論文では、片眼に緑内障の病期の進行がみられた場合に、反対眼では通常の視野検査や眼底写真による診断では進行がみられていなくとも、より微細な眼底構造を捉えられる光干渉断層計による観察では、網膜神経線維層厚の菲薄化がみられたと報告しています。
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緑内障治療における長期のアドヒアランスについて
緑内障診療ガイドライン(第三版)によれば、「緑内障はきわめて慢性に経過する進行性の疾患で、長期の点眼や定期的な経過観察を要し、かつ自覚症状がないことが多いので、治療の成功には患者の協力が保たれることが必須である。(中略)アドヒアランスとは患者も治療方法の決定過程に参加したうえ、 その治療方法を自ら実行することを指すものと定義される。(中略)アドヒアランス不良は、緑内障性視神経症が進行する重要な要因の一つであるので、治療にはアドヒアランスが得られやすい薬剤を選択する、進行したときにはアドヒアランスを確認するなどの配慮が必要である。」と書かれています。
過去の報告によれば、良好なアドヒアランスを得るためには、薬物治療開始後1か月が大切であるとする報告がありましたが、長期にわたるアドヒアランスを調べた本論文によれば、4年間にわたる良好なアドヒアランスを得るために、最初の一年間が大切であると結論付けています。
Patterns of Glaucoma Medication Adherence over Four Years of Follow-Up
光干渉断層計を用いた緑内障診断について
緑内障の本態は進行性の網膜神経節細胞の消失とそれに対応した視野異常であり、一般的に初期には網膜神経線維層の菲薄化や視神経乳頭陥凹拡大といった眼底の変化ののちに、視野検査で感度低下が生じ、その時点で緑内障の診断がなされます。緑内障診療において、視神経障害は不可逆的なことから、早期診断が重要であることは言うまでもなく、眼底を三次元的に観察する光干渉断層計(OCT)による視神経や網膜の微細構造の評価は、早期診断に極めて有用です。
本論文では、眼底変化はみられるものの視野障害が生じていない、所謂緑内障疑いの症例を経過観察し、最終的に視野障害が生じた1/3の症例でOCTで4年前に緑内障性変化がみられ、長いものでは視野障害が生ずる8年前にOCTで変化がみられたと報告しています。ただし、あくまでもOCTは緑内障診断においては補助的に用いるべきで、視野検査が重要であるとも述べています。
原発開放隅角緑内障例に対する配合剤の使用につき
近年、異なる作用機序を有する薬物を一剤にまとめた配合剤が各種疾患で用いられるようになり、患者さんにとって、コストや利便性の面で多大なメリットになっています。緑内障薬物治療につきましても、配合剤が頻用されるようになり、その有効性が証明されつつあります。本論文では、原発開放隅角緑内障例に対する治療について、プロスタグランジン関連薬単剤治療に対し、配合剤に変更したところ、更なる眼圧下降がみられたことが示されました。本研究につきましては、当やおえだ眼科も微力ながら協力させて頂きました。関係各位に謝意を申し上げます。
相対性求心性瞳孔反応欠損の研究につき
相対性求心性瞳孔反応欠損(relative afferent pupillary defect: RAPD)とは、たとえば右眼が視神経症で視力低下していて、左眼が正常の場合
ペンライトを右眼から左へ動かすと左の瞳孔が縮瞳します。そこから右眼にライトを戻すとライトが来た瞬間には右眼は間接反応のため縮瞳しているのですがライトの明るさを右眼は感知できないのでライトを照らしているにも関わらず瞳孔がかえって開いてゆくという奇異な逆の反応が見られます。この現象は視神経疾患を鑑別するために、極めて重要な所見です。しかしながらこの反応は正常でもみられることがあり、また、軽微な場合見逃すことがあります。本論文はRAPDx®という器械を用いてRAPDを観察したところ、極めて高い診断力があったことを示しております。本研究につきましては、院長も微力ながらお手伝いさせて頂き、共同執筆者として名前を入れて頂きました。
近視と出生順について
自分自身存じ上げなかったことなのですが、英国やイスラエルの研究で、第一子はその後に生まれる子よりも近視の発症率が10%高いという報告があったとのことです。本論文は追試として教育環境との関連を検討したところ、高い教育を受けた例を除外すると、有意性が減少したため、近視と出生順との関係については、教育が関連していることを示唆しています。
Role of Educational Exposure in the Association Between Myopia and Birth Order
血圧変動と緑内障について
緑内障の発症および病期の進行における最大の危険因子は眼圧ですが、古典的に特に正常眼圧緑内障において、眼循環障害の影響も危険因子の一つとして考えられています。特に夜間低血圧は虚血性視神経症の発症のリスクのほか、その病態の類似性のために緑内障との関連が示唆されています。
本論文では、そのような一日の血圧変動のみならず、日中の血圧変動が緑内障性視野障害進行の危険因子であると報告しています。
乳頭出血と血小板機能について
視神経乳頭出血は、緑内障性変化を持つ視神経乳頭にかなり特異的に生じ、健常者ではまれで(0~0.21%)、特に反復してみられた場合は病的意義が高く、また、乳頭出血の頻度は他の緑内障眼に比して正常眼圧緑内障眼において高いことが知られています。一般的に乳頭出血は数か月で消失するため、観察できない例も多いと言われています。乳頭出血が循環不全によって生ずるか、網膜神経節細胞の欠損に伴って物理的に血管が破綻するかについては、まだ結論が出ていませんが、光干渉断層計による観察などで、後者によるものではないか、という説が優勢のようです。
本論文では、正常眼圧緑内障例において、乳頭出血を有する例では、血小板機能が低下しており、そのため出血が長引き、観察されやすいのでは?と結論づけています。
対光反射と緑内障
対光反射は、網膜神経節細胞を介して瞳孔の直径を光の強さにより変化させ、網膜に届く光の量を調節する反射であり、各種網膜疾患や視神経疾患などで反射が減弱することが知られています。緑内障は網膜神経節細胞の消失が病態の本質であるため、理屈上は対光反射の変化が生じうると考えられますが、末期になるまでは、一般臨床では観察しづらいのが現状です。
近年、内因性光感受性網膜神経節細胞の働きに注目が当たっているようで、睡眠などの概日リズムを司っていることが示唆されており、また、緑内障においては早期に障害されることが言われています。一方、内因性光感受性網膜神経節細胞は青色の光に感受性が高いことも示唆されています。
本論文は、緑内障症例に対して青色の光を用いた対光反射を調べた結果、比較的早期に、かつ病期の強さに応じて対光反射の減弱がみられたことを報告しており、内因性光感受性網膜神経節細胞の消失がその主因であることを示唆しております。
Pupillary Responses to High-Irradiance Blue Light Correlate with Glaucoma Severity
原発開放隅角緑内障の有病率
本報告は、過去81編の研究(37カ国、216214人の対象者、5266人の原発開放隅角緑内障例)をまとめたものですが、原発開放隅角緑内障の有病率は、人種では黒人が最も多く、60歳で5.2%、80歳で12.2%であり、男性は女性より有病率が高かったとのことです。また、全世界の有病率は2.2%と推測されるということです。