「院長ブログ」カテゴリーアーカイブ

目薬をさし忘れました!

正直に点眼状況を教えて下さる患者さんが結構います。ありがたいです。上記の一言の後に、「翌日に追加してさした方がいいですか?」と聴かれることがあります。状況に応じて言い方を変えてますが、基本的に「翌日も決められた方法で点眼して下さい」とお話しています。理由は二つ。一つは多くの点眼液には防腐剤が含まれているのですが、これが目の、特に表面にある角膜を障害させることがあり、多く点眼するとそのリスクが高まるからです。二つ目は、緑内障治療薬についてですが、プロスタグランジン関連薬については、過剰な点眼が眼圧下降効果を落としてしまうことが知られています。また、交感神経β遮断薬などについても、微妙なバランスで眼圧を下げている面があり、症例によっては、かえって濃度を上げると眼圧下降効果に影響を及ぼす可能性があると考えています。ただし、炭酸脱水酵素阻害薬である、ブリンゾラミドは一日二回点眼ですが、効果が不十分な場合、三回点眼も許されています。Overdoseが眼圧に及ぼす影響について、知見が少ないのが現状です。

Preperimetric glaucoma

昨日院長はいわゆるコメディカルの方々に招かれて、講演をしてきました。その中で、「Preperimetric glaucomaに対する治療はどうしてますか?」という質問がありました。「Preperimetric glaucoma」とは、緑内障診療ガイドライン(第3版)によれば、「眼底検査において緑内障性視神経乳頭所見や網膜神経線維層欠損所見などの緑内障を示唆する異常がありながらも通常の自動静的視野検査で視野欠損を認めない状態」と書かれています。提唱したのは、確かJonas先生という緑内障の権威だったかと思います。アメリカ眼科学会においては「緑内障疑い」と定義しているカテゴリーに入ります。緑内障は早期発見早期治療が必要としながらも、「Preperimetric glaucoma」に対する治療は慎重に考えるべきと思います。確かに緑内障は網膜神経節細胞の死から失明に至る連続体と考えれば、「Preperimetric glaucoma」の時点で治療を開始すれば、視野障害(視機能障害)を生じさせる危険性を軽減させるとも言えます。しかしながら、緑内障に類似した他の疾患である可能性もあり、何も治療しなくても視野障害が一生起きない可能性もあるからです。その場合、「緑内障疑い」として、治療薬を使わず、経過観察を行います。

「緑内障の疑いがありますから、経過をみさせて下さい」と医者から言われた場合、一般的には、「緑内障と診断できない」とか「治療をしてくれない」のではなく、「何もしなくても視機能障害を起こさない可能性が高い」という場合が多いと思われます。医者としては、治療を開始するのは容易ですが、一度開始したら、ほぼ一生治療を続けなければなりませんので、「治療をいつから行うか?」については慎重にならざるをえないという事情があります。

緑内障治療薬とアドヒアランス

高血圧など、自覚症状がない慢性疾患に対する投薬治療において、アドヒアランスは30-70%で、多くは最初の1カ月で治療を中断すると言われています。

一方、緑内障治療薬においては、20-50%と更に低いと言われており、「緑内障は失明する病気」と説明してもアドヒアランスは42%程度、すでに片眼失明していても58%であったという報告があります。一方、アドヒアランスが不良な症例では、より高い眼圧、高度な視野狭窄がみられたとする報告もあります。

アドヒアランスを向上させることは、緑内障治療に極めて重要です。動機づけの欠如、薬の値段、疾患に対する理解、外出(旅行)などの患者側の要因もありますが、医者側も、不親切でコミュニケーションがとりづらい、十分に時間をかけた診察をしないなどの要因があります。院長もこれらのことを留意して診療していきたいと思っております。

緑内障治療におけるアドヒアランス

一般的な緑内障、特に従来正常眼圧緑内障と呼ばれていた疾患については、非常にゆっくりと病期が進行し、極論すればその人の一生の管理が必要で、長きにわたる患者と医者との信頼関係を築かなければなりません。多くの場合、緑内障の治療は薬物治療が主となりますが、従来、「患者さんがきちんと薬物を使っているか?」を示す言葉として、「コンプライアンス」という言葉が使われていました。「コンプライアンス」とは、「医師からの一方的な治療指針を患者が守ること」と定義されますが、信頼関係を得るのに不適切とされ、現在では「アドヒアランス」という用語が主に用いられています。「アドヒアランス」とは、「患者も治療方法の決定過程に参加した上、 その治療方法を自ら実行すること」と定義されます。緑内障診療において、このアドヒアランス不良が大きな問題となっており、他の疾患の薬物治療と比較してもはるかに悪いことがわかっています。

緑内障診療ガイドライン(第三版)

 

水の飲み過ぎは緑内障を悪化させますか?

緑内障誘発試験というものがいくつかあり、院長が医者になりたての頃は教科書によく載っていたのですが、例えば緑内障かどうかを調べるために、5分間に水を1リットル飲んで眼圧が上がるかどうかを調べる試験、飲水試験というものがありました。このような緑内障誘発試験は、その有用性の少なさと危険性を鑑みて、現在ではほぼ廃れてしまいました。

こちらは最新の論文で、飲水試験の方が、カフェイン接種よりも眼圧が上がるという内容です。水の飲み過ぎにしろ、カフェインの摂り過ぎにしろ、通常の生活の中では起こりえない条件でなければ眼圧は上昇しませんので、上記のような質問には、「あまり気にする必要はありません」とお答えしています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24304594