「院長ブログ」カテゴリーアーカイブ

炭酸脱水酵素阻害薬内服による急性緑内障発作

炭酸脱水酵素阻害薬内服は、長期的には四肢のしびれや代謝性アシドーシスなどの副作用のため、継続して使用することは難しいのですが、短期的には高い眼圧下降効果が得られるため、急性緑内障発作の前治療のひとつとしてよく行われています。一方、稀ではありますが、炭酸脱水酵素阻害薬には、一過性近視や毛様体浮腫、ぶどう膜滲出、水晶体―虹彩隔膜の前方偏移などの機序により、かえって閉塞隅角緑内障を起こしうることも言われており、少ないですが、症例報告がなされています。 本論文は、急性高山病予防に炭酸脱水酵素阻害薬内服を行ったところ、急性緑内障発作を生じたという症例報告です。 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24620322

Random forestを用いた緑内障診断

緑内障診断についての難しさは以前述べたことがあります。緑内障診断には眼圧、眼底所見、視野所見が欠かせませんが、例えば眼圧が日本人の平均値である15mmHgであっても正常眼圧緑内障の可能性があります。眼底所見にしても、健常眼の視神経乳頭形状や網膜神経線維層厚にはかなりの相違があり、「この数値を下回ったら緑内障」という診断は困難です。視野所見が最終的な確定診断になりえますが、検査時間が長く、患者さんに負担がかかり、検査ごとの測定値の変動が大きいことが知られています。

共焦点レーザー検眼鏡、Heidelberg Retina Tomograph (HRT)は立体的に視神経周囲の眼底形状の計測が可能な器械で、1990年代に開発されて以降、今でも緑内障診断に有用な検査機器です。本器械はいくつもの計測パラメータが算出されますが、各パラメータ単独での緑内障診断力は低く、また、専門家でないと判断し難いところがあり、それらパラメータを組み合わせた判別式や、machine learning classifierといった人口知能を用いた緑内障診断法も開発されましたが、立体眼底写真を用いた緑内障専門医による診断の方が良好という報告もあり、有用とは言い難いものがありました。

本論文は、決定木という、沢山のパラメータをyes/noで分類していき、それをbootstrappingという観察集団のサブグループで決定木を多数作成するrandom forest法を用いることにより、HRTによる緑内障診断が格段に向上したと報告しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24609628

傍中心暗点を有する緑内障眼の特徴

緑内障治療において大切なことの一つは、患者さんが如何に自覚症状がない状態で一生をすごしてもらうか、ということです。視神経障害や視野障害は不可逆的なものであり、そのため早期発見早期治療が大事になりますが、なかでも傍中心暗点を有する患者さんは自覚症状を起こしやすいため、なおさら早期発見が大切になります。

本論文は傍中心暗点を有する緑内障患者さんの眼底所見を、他眼と比較したものです。両眼とも眼圧が同じであっても、傍中心暗点を有する眼では、より強い視野障害があり、乳頭出血(特に正常眼圧緑内障で、視神経障害、視野障害が生じる前にみられる眼底所見)が多く、網膜神経線維層欠損の幅が広く、網膜中心動静脈の幹がより垂直方向に移動しており、多変量解析では、この幹が水平垂直方向に移動していた、と報告しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24595065

皮膚充填剤による失明

皮膚のしわを目立たなくさせるために用いる皮膚充填剤(フィラー)を前頭部に用いた場合、網膜中心動脈に迷入することが稀にあり、失明したという症例報告がありました。フィラーの使用には十分留意して下さい。

http://archopht.jamanetwork.com/article.aspx?articleID=1838342&utm_source=dlvr.it&utm_medium=facebook&utm_campaign=feed_posts%0A

選択的レーザー線維柱帯形成術の安全性

選択的レーザー線維柱帯形成術(selective laser trabeculoplasty; SLT)は、房水の流出路である線維柱帯の老廃物を除去しながらも、線維柱帯自身には影響を与えない、安全な緑内障レーザー治療です。短期的には、一時的高眼圧や、前房内の炎症などの合併症があるくらいで、大きな合併症を起こしにくいことが知られています。ただし、治療効果の持続性が短いこと(その場合はレーザーを追加することがあります)や、仮にその後緑内障手術を行った場合に、若干手術成績が落ちるというデメリットもあります。

本論文では、原発開放隅角緑内障眼に対するSLTで、眼圧が平均19.1mmHgから、3カ月後に13.9mmHgまで低下しつつ、黄斑浮腫や前房内の炎症がみられなかったと報告しています。

http://journals.lww.com/glaucomajournal/Abstract/2014/02000/Adverse_Effects_and_Short_term_Results_After.8.aspx