「院長ブログ」カテゴリーアーカイブ

硝子体手術後の眼内炎について

硝子体手術は網膜剥離、糖尿病網膜症、各種黄斑疾患の治療に極めて有用な方法ですが、高度な技術が必要とされる眼科手術の一つと言えます。近年極小切開硝子体手術が主流となり、より簡便かつ短時間で行えるようにはなりましたが、術創を縫合しないために術後感染症(眼内炎)が危惧されます。

本論文は、硝子体手術後の眼内炎発症眼とそうでない眼との症例対象研究です。眼内炎の発症は1730件に1例の割合で生じ、危険因子として免疫低下と術前ステロイド点眼の既往が挙げられましたが、術創の大きさは関係がなかったとのことです。また、網膜剥離手術では、眼内炎の発症が少なかったとしています。

http://bjo.bmj.com/content/98/4/529.abstract

 

緑内障治療薬のウォッシュアウトについて

緑内障診療ガイドライン(第三版)によれば、原発開放隅角緑内障(広義)の治療は、「薬物治療を第1選択」とし、「薬物治療は眼圧下降点眼薬の単剤療法から開始し、有効性が確認されない場合には他剤に変更し、有効性が十分でない場合には多剤併用(配合点眼薬を含む)を行う」としています。緑内障治療薬の効果が不十分と思われる場合や、眼圧が下がっても視野障害・視神経障害が進行する場合などの例で、無治療時眼圧を調べるために、緑内障治療薬の使用を一時的に中断して頂くことがあります。それをウォッシュアウトといいます。緑内障治療薬は長期に使用した場合に、眼圧下降効果が残ってしまう場合が多く、ウォッシュアウト期間は通常2~4週を目安に行われることが多いと思われます。

緑内障治療薬にはたくさんの種類があり、それらの効果の報告も無数にありますが、緑内障治療薬をウォッシュアウトした場合の眼圧変化についての報告はほとんどありません。本論文は、緑内障治療薬をウォッシュアウトしたところ、点眼1剤、2剤、3剤使用例で、各々治療時眼圧より平均5.4mmHg、6.9mmHg、9.0mmHgの上昇がみられ、治療時眼圧より25%以上の眼圧上昇がみられた例は、各々38%、21%、13%であり、治療時点眼数の数に従い、眼圧上昇の割合が低かったと報告しています。また、ウォッシュアウトしても眼圧上昇幅が小さかったことから、きちんと点眼されていなかったか、さしていても緑内障治療薬そのものの効果が低かったことが想定されるとのことです。

http://archopht.jamanetwork.com/article.aspx?articleID=1815983&utm_source=dlvr.it&utm_medium=facebook&utm_campaign=feed_posts%0A

原発閉塞隅角症疑いについて

緑内障診療ガイドライン(第三版)によれば、原発閉塞隅角症疑い(primary angle closure suspect; PACS)とは、「原発性の隅角閉塞があり、眼圧上昇も、器質的な周辺虹彩前癒着(peripheral anterior synechia: PAS)も緑内障性視神経症も生じていない、すなわち非器質的隅角閉塞(機能的隅角閉塞、appositional angle closureとも呼ばれる)のみの症例」であり、米国における緑内障ガイドラインである、preferred practice patterns (PPPs)においても、ほぼ同様の定義です。本疾患群に対する治療については定見がないのですが、PPPsによれば、PACSの自然経過をみた文献がわずかながらあり、四分の一の症例で、5年以内に眼圧上昇またはPASが生じると言うことです。閉塞隅角緑内障は、急性緑内障発作を起こしてしまった場合に、治療にはかなり難渋し、不可逆的な視機能障害も生ずるため、可能であればPACSの時点で治療を行いたいところですが、治療に対する合併症や掛かる費用なども勘案すると、PACSに対する治療は十分な検討が必要と考えます。

久米島スタディにおける原発開放隅角緑内障患者の有病率

2000年~2001年にかけて行われた日本初の緑内障疫学調査である、多治見スタディは、日本の中心に位置する典型的な中小都市である岐阜県多治見市で行われ、所謂日本人を代表する母集団に基づいて行われましたが、2005年~2006年にかけて行われた久米島スタディは、沖縄県の離島での緑内障疫学調査であり、同じ日本で合っても、人口密度や医療環境、気候、年齢、人種の起源(沖縄県は縄文人を起源とした人種が多いとのことです)などが多治見市とは異なっており、過去の報告において、緑内障の有病率が異なっていたことがわかりました。例えば原発閉塞隅角緑内障においては、多治見市に比べて久米島では3.7倍有病率が多かったことがわかりました。

本論文では、原発開放隅角緑内障(広義)の有病率を調べたところ、多治見市では3.9%であったのに対し、久米島では4.0%で、正常眼圧緑内障では各々3.3%と3.6%とで、大きな差がなかったものの、原発開放隅角緑内障(狭義)(眼圧が統計学的な正常範囲を超える原発開放隅角緑内障)では各々0.7%と0.3%、高眼圧症では2.6%と0.6%と、比較的高い眼圧の原発開放隅角緑内障(広義)が多かったと報告しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24746386

プロスタグランジン関連薬と角膜厚

緑内障の発症および病期の進行における最大の危険因子である眼圧を正確に測定するためには、本来眼球内部にセンサーを入れて評価しなければならないのですが、当然のことながら生体眼では不可能なため、多くの眼圧計では角膜を介して眼圧が測定されます。眼圧を測定するうえで問題となるのは、角膜が厚い場合には眼圧が高めに測定されるため、過大評価される可能性があるということで、もちろん逆もしかりです。また、角膜が薄い場合には、視神経を保護する篩状板も脆弱である可能性が指摘され、より緑内障になりやすいとする仮説もあります。

代表的な緑内障治療薬であるプロスタグランジン関連薬では、コラーゲン線維の変性を来すため、角膜厚を薄くさせる効果があると指摘されています。本論文では、4年にわたる長期的な観察でも、角膜厚は薄くなったと報告しています。ただし、眼圧値との相関はなかったとのことです。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24738848

緑内障眼における白内障術後の眼圧上昇について

健常眼にしろ、緑内障眼にしろ、白内障手術後は眼圧が下がる症例が多いことが知られていますが、中には(特に緑内障眼においては)眼圧が上昇してしまう例もみられます。

本論文では、緑内障眼に白内障手術を行ったところ、17%で眼圧上昇がみられ、長い眼軸長や広い隅角、深い前房、男性、術前の緑内障治療薬数、レーザー線維柱帯形成術の既往、術後炭酸脱水酵素阻害剤の内服がなかった例を危険因子として挙げています。

http://www.jcrsjournal.org/article/S0886-3350(13)01525-3/abstract

緑内障と外側膝状体

緑内障は、網膜神経節細胞が障害され、視野障害を生ずる疾患ですが、その網膜神経節細胞から伝達された視覚情報は、脳内の外側膝状体という視覚情報処理を担う部位に至ります。緑内障は眼内の疾患ですが、従来より、外側膝状体も障害を受けることが示唆されています。

高性能のMRIを用いて行われた本論文では、緑内障眼の外側膝状体は健常眼より小さく、緑内障眼の網膜神経線維層厚や黄斑厚と、対応する外側膝状体の大きさが比例することなどを報告しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24722700