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点眼液の管理

Tsaiらの報告(2007)を引用します。

¢25.4%は点眼瓶の先を眼球に触れてしまい、15.8%は点眼前の手洗いを全くしない
¢点眼液の汚染を考えると、点眼液は1カ月で使い切るのが望ましい
¢点眼瓶の保管について、適温の上限が25℃であるものが多く、風呂場や台所の保管は勧められない
¢冷蔵庫の保管も凍るくらいの温度になることがあり、注意すべきである

目薬の正しいさし方

正しい点眼法は種々報告がありますが、ここではZimmerman (1984)の方法を示します。

¢眼瞼縁(まぶたの縁)に近い下眼瞼(下まぶた)を親指と人差し指でつまむ
¢少しひっぱり下結膜嚢のパウチ(ふくろ)をつくる
¢点眼瓶の先はどこにも触れないようにする
¢点眼瓶の先を直視できる位置にもっていく
¢点眼をする直前に上方視(自分の額をみる)し、パウチ内に点眼液が貯まるようにする
¢点眼したら閉瞼し、鼻涙管部(めがしら)を2分間圧迫する
少し違いますが、製薬会社のサイトも示します。
ポイントは、①下まぶたに点眼液が貯まるようにすると効果的、ただし2滴以上いれても溢れるだけで効果が上がるわけではない ②点眼瓶の先をまつげや眼球に当てないように注意する ③点眼瓶の後ろを押すことにより、過剰に点眼液が出るのを防げる ④最後にめがしらを押さえて、全身に点眼液がまわらないようにする一方、眼球に効果的に浸透させる工夫をする、といったところでしょうか?

いつまで目薬をさすべきなのでしょうか?

緑内障治療薬を使用している患者さんによく聴かれる質問です。「(少なくともお元気なうちは)一生です」とお答えするしかありません。

緑内障で失明するリスクは(外傷や手術の合併症で低すぎることがない限り)眼圧が低ければ低いほど低下します。また、緑内障は年齢と関係があり、網膜神経節細胞は健常人であっても年齢とともに減少し、理論値では150歳になれば全員緑内障になると言われています。その方の余命が何歳であるのかが分からない以上、「一生」とお答えするしかありません。

緑内障診療ガイドラインにも書かれていますが、以上の理由もあり、医者側としては「薬物治療の原則は必要最小限の薬剤と副作用で最大の効果を得ることである」必要があり、その方の「QOL、治療にかかわる費用、アドヒアランスなどへの配慮」も必要となります。

緑内障診療ガイドライン第三版

風邪薬と緑内障

大分寒くなり、風邪をこじらしている方も多いのではないかと思います。風邪薬や胃薬、睡眠薬などの添付文書に「緑内障の方は禁忌または注意するよう」喚起がなされていることがあります。これは副交感神経を刺激または交感神経を抑制させる働きを持つ薬物が、場合によっては急性緑内障発作を生じさせる可能性があり、その際には手術治療を行わないと失明に至ることがあるからです。

しかしながら、眼科医の側からみると、緑内障の中で、急性緑内障発作を起こす「閉塞隅角緑内障」の病型は少ないこと、そもそも緑内障の診断がなされて、急性緑内障発作が起こりそうな方にはすでにレーザーまたは手術治療がなされているケースが多いことから、むしろ怖いのは、「緑内障の有無を調べたことがない人」と思われます。

多くの緑内障は、自覚症状なしに病期が進行しますので、症状がなくとも、中高年の方の眼科検診を勧めます。

アドヒアランスとpersistence

医者が処方した投薬を患者がきちんと服用しているか、点眼しているか、を示す用語に、最近はアドヒアランスを用いるようになったことは以前お話しました。アドヒアランスは、「医師からの一方的な治療指針を患者が守るのではなく、患者も治療方法の決定過程に参加した上、 その治療方法を自ら実行する」ことです。一方persistenceという用語があります。アドヒアランスは「薬物を使用している状態であり、途中中断があってもいい」というニュアンスがありますが、persistenceは、「連続して薬物を使用している状態」を言います。緑内障治療薬におけるアドヒアランスは20-50%と言われていますが、persistenceは10%を下回ることがあると言われています。

緑内障の90%が病院にかかっていないことも併せると、(緑内障であっても治療が必要でない例も実は多いのですが)、10%×10%で、きちんと治療がなされている緑内障患者さんは、1%しかいない計算になります。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16226511

正常眼圧緑内障

昨日同級の眼科女医さんが、緑内障についてのお話を某地方局でされました。非常にわかりやすく的確で、感銘を受けました。その中で出てきた用語、「正常眼圧緑内障」は、医者側としては患者さんに啓蒙したい用語なのですが、たぶん患者さんとしては却ってとっつきにくいかもです。「正常眼圧」って何か? たまに患者さんから質問を受けるのですが、簡単に言えば正常人を100人集めたら中央の95人が含まれる眼圧のことで、統計学的に規定されているものです。以前にも似たようなお話をしましたが、病気はある一定値を超えたから生じるというわけではなく、どの値で生じるかは人それぞれです。実際に眼圧が高い原発開放隅角緑内障(狭義)と正常眼圧緑内障を包括した用語、原発開放隅角緑内障(広義)においては、実に多くの正常眼圧患者(日本においては90%以上と言われてます)が含まれます。緑内障患者全体でみても70%以上とも言われています。

では、「正常眼圧」はどのくらいか? 日本における唯一の疫学調査である多治見スタディによれば、「右眼眼圧は14.6±2.7 mmHg(平均値±標準偏差)、左眼眼圧は14.5±2.7 mmHg(同)であり、正常眼圧を平均±2標準偏差で定義すると、正常上限は19.9~20.0 mmHg」となり、したがって「日本人において眼圧20 mmHgを境に原発開放隅角緑内障と正常眼圧緑内障の二臨床病型に分けることには一定の合理性」があります。

過去には「低眼圧緑内障」とも呼ばれていた一群ですが、病態が違う緑内障が含まれる可能性があることと、統計学的に正常眼圧であることから、「正常眼圧緑内障」という用語は院長が医者になりたての頃(20年近く前)に広まりましたが、現在においては、「正常」という用語が却って混乱を招くという声もあり、特に欧米においては比較的眼圧が低いという意味で、「low pressure glaucoma」という用語が復活しつつあるようです。患者さんには、「体温が37度でだるくなる人と、ぴんぴんする人がいるように、眼圧も高くても失明しない人もいれば逆の人もいる」などの説明をさせていただいてます。

緑内障診療ガイドライン(第三版)

弱視と3D立体映像

赤ちゃんの眼は、最初は光があるなしくらいしかみえないものが、光刺激により視機能が発育し、おおよそ6歳くらいで両眼視機能が完成されると言われています。しかしながら、斜視や遠視などが原因で視機能の発育が遅くなることがあり、視力がでない、立体視ができないといった症状がでるのが弱視です。適切な治療で十分な視機能を得られることも多いですが、健常人と比べ、立体視機能が劣るケースもしばしばあります。最新号の日本眼科学会雑誌におきましても、3D立体映像の視聴において、弱視例では「立体に見えない」や「疲れる」といった症状が多々あると報告がなされましたが、最新の海外論文でもそれを支持する報告が出されました。

弱視は早期発見と適切な治療(特に家族の協力)が肝要です。小さいお子様がおられる家庭につきましては、十分注意して下さい。また、小さい子の3D立体映像の視聴は急性内斜視などの合併症を起こすことがありますので要注意です。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23928879

緑内障と白内障

緑内障患者さんの経過を長くみていると、かすみ目を訴える方が出てきます。「全体的にぼやける」の症状の場合は、多くは白内障が原因です。緑内障は視野全体が障害を起こすことはめったになく、局所的に見えないところができて、それが拡がっていくパターンがほとんどです。白内障は主に加齢に伴い誰でも生じ、徐々に進行していきます。「かすみ目は白内障が原因です」とお話しすると、「緑内障でも白内障になるの?」「緑内障があると白内障手術ができないって聴くけど?」などのご質問を受けることがあります。「白内障は水晶体という目のレンズの病気で、緑内障は視神経の病気ですから、名前が似ていても違うものですし、緑内障があっても白内障手術はほとんど問題なくできますよ」と、説明したいところなのですが、水晶体は加齢とともに大きくなり、前方に移動することがあり、眼内の房水循環を妨げ、眼圧を上げることがあるので、「緑内障治療の一環として白内障手術を提案します」とお話するのが非常にややこしいです。緑内障と白内障、名前が似ていて印象に残りやすいのはいいのですが、混同してしまうのが、悩ましいところです。

目薬をさし忘れました!

正直に点眼状況を教えて下さる患者さんが結構います。ありがたいです。上記の一言の後に、「翌日に追加してさした方がいいですか?」と聴かれることがあります。状況に応じて言い方を変えてますが、基本的に「翌日も決められた方法で点眼して下さい」とお話しています。理由は二つ。一つは多くの点眼液には防腐剤が含まれているのですが、これが目の、特に表面にある角膜を障害させることがあり、多く点眼するとそのリスクが高まるからです。二つ目は、緑内障治療薬についてですが、プロスタグランジン関連薬については、過剰な点眼が眼圧下降効果を落としてしまうことが知られています。また、交感神経β遮断薬などについても、微妙なバランスで眼圧を下げている面があり、症例によっては、かえって濃度を上げると眼圧下降効果に影響を及ぼす可能性があると考えています。ただし、炭酸脱水酵素阻害薬である、ブリンゾラミドは一日二回点眼ですが、効果が不十分な場合、三回点眼も許されています。Overdoseが眼圧に及ぼす影響について、知見が少ないのが現状です。

White Coat Adherence

院長は歯のメンテナンスを受けに数カ月に一度歯科医院にかかっているのですが、受診する直前に一生懸命歯を磨いてしまいます。このように、患者は医者に自分が「いい患者」であることをみせたがる傾向があります。診療機関にかかる直前に点眼する、内服するなどの行為をWhite Coat Adherenceといいます(いい日本語訳はないようですが)。緑内障診療の場で、眼圧が低いにも関わらず、視神経障害、視野障害の進行がみられる場合、White Coat Adherenceの可能性があります。いずれ述べますが、緑内障治療は完璧にできる患者の方がはるかに少ないので、かかりつけ医には、是非点眼状況を正直にお伝えすることをお勧めします。でないと、過剰な治療を勧められる可能性があるからです。

http://georgevanantwerp.com/2010/09/27/white-coat-adherence/