当院でも行っている選択的レーザー線維柱帯形成術(selective laser trabeculoplasty; SLT)は、房水流出路である線維柱帯に特殊なレーザーを照射することにより、流出抵抗の基である色素細胞や老廃物を除去したり、線維柱帯細胞の機能の活性化を促したりすることにより、房水流出を促し、眼圧を下げる治療であり、安全性が極めて高く、薬剤アレルギーがある症例や手術加療を望まない症例には有効な治療法であります。ただし、術後しばらくすると効果が減弱し、再照射する必要があるケースも少なからずみられます。本論文では照射エネルギーを高めることにより、より高い眼圧下降が得られる可能性を示唆しています。
「眼についての最新情報」カテゴリーアーカイブ
ラタノプロスト点眼は視野障害進行を抑制させる
緑内障診療において、従来より、緑内障治療薬が眼圧を下げること、眼圧を下げることが視野障害進行を抑制させる唯一根拠のある治療であること、は証明されていましたが、緑内障治療薬を用いることで視野障害進行を抑制させることについては、高いエビデンスレベルでの研究はなされていませんでした。この度、英国でのランダム化比較試験において、代表的な緑内障治療薬であるラタノプロスト点眼液が、視野障害進行抑制の効果があることが初めて証明されました。
https://www.carenet.com/news/journal/carenet/39282
眼圧を家庭内で測定する新しい方法について
緑内障診断および治療において、眼圧測定は必須の検査ですが、眼球壁を介して眼球内の圧力を測定する必要があるため、一般的に検査は医師または医療従事者によって行われます。家庭でも眼圧が測定できるように近年種々の検査機器が開発中です。方法としては、コンタクトレンズの使用や空気または低侵襲の針状の物質を眼球に噴出させる方法、何らかのインプラント素材を眼球内に装着させる方法が研究または臨床応用されており、一部は診療所で計測される眼圧値に近い値を得られることが確認されています。
糖尿病と緑内障
従来より、糖尿病は疾患による続発緑内障のみならず、原発開放隅角緑内障の危険因子と考えられています。原因は毛細血管のストレスによる循環不全やそれに伴う眼圧上昇などによるといわれています。メタアナリシスを用いた本論文では、糖尿病、その罹患期間、空腹時血糖が緑内障の危険因子であり、糖尿病患者における緑内障の相対危険度は1.48、眼圧は健常と比べて0.18mmHg上昇すると報告しています。
http://www.aaojournal.org/article/S0161-6420(14)00697-6/abstract?cc=y
緑内障における形態的異常と自覚症状について
緑内障という疾患はcontinuum(連続体)であると言われており、網膜神経節細胞の死から始まり、網膜や視神経乳頭などの形態の変化、視野障害の出現とその進行、自覚症状の出現ののち、失明に至る経過をたどります。従って、どの時点から「緑内障」であるか、は人為的に決定されたもので、一般的には標準的に用いられている視野検査で緑内障の特徴的所見が出始めた時から、と言われています。従来まで、形態と視野、視野と自覚症状との間には強い相関があるという報告が多数なされてきましたが、本論文では、網膜神経線維層厚と自覚症状との間に相関があったと報告しています。
角膜ヒステリシスと緑内障
ヒステリシスとは、物質の状態が、現在の条件だけでなく、過去の経路の影響を受ける現象の事を言います。角膜に空気圧をかけると、圧平状態を経てわずかに窪み、その後再び圧平状態を経て角膜形状は復元されます。一般的にはこの復元の程度を角膜ヒステリシスと呼び、眼球弾性と関連するため、眼圧値そのものや、眼圧が視神経および篩状板に及ぼす力に影響を与えているものと考えられております。すなわち、角膜ヒステリシスが低ければ、低い眼圧でも視神経障害が生じやすいと考えられています。
正常眼圧緑内障を対象とした本論文では、視野障害進行と角膜ヒステリシスに関連があったと報告しています。
糖尿病網膜症に対する薬物治療
糖尿病網膜症は、失明原因の上位を占める重要な疾患で、治療法としては、血糖コントロールのほか、レーザーや抗血管内皮増殖因子剤硝子体内注射、硝子体手術などが挙げられます。しかしながら、点眼や内服などの薬物治療においては、あまり有効な方法は知られていません。本論文では、高脂血症治療薬である、フェノフィブレートが特に初期網膜症患者の病期進行抑制に有用である可能性を示唆しています。
http://www.aaojournal.org/article/S0161-6420(14)00623-X/abstract
緑内障性視神経症はどの部位から先行して生ずるか?
古典的に緑内障性視神経症は、眼圧によって視神経乳頭部で篩状板部にずれが生じ、視神経が絞扼され障害が起きるとされています。一方で、現在の世界的な緑内障の定義としては、視神経症の存在が前提として存在し、眼圧は緑内障の最大のリスクファクターであるとする考えでほぼ統一されていると思われます。また、臨床的に、視神経乳頭の変化に比べて、網膜神経線維層欠損の方が先行して生ずる例も散見され、どの部位から視神経症が生ずるかは、再考される必要があるかと思われます。本論文では、緑内障眼において共焦点走査型レーザー検眼鏡による視神経乳頭の観察と、光干渉断層計を用いた網膜神経線維層の観察を4.5年間経時的に観察したところ、ほとんどの例で視神経乳頭の形状変化が先行してみられ、網膜神経線維層の変化とは3年のタイムラグがあると報告しています。
http://www.aaojournal.org/article/S0161-6420(14)00569-7/abstract
5年間の緑内障の発症率について
横断的研究である緑内障の有病率の研究については、多数の報告がなされていますが、縦断的研究については極めて少なく、貴重なデータと言えます。韓国で行われた研究によると、5年間で、原発開放隅角緑内障疑いの発症率は0.84%、緑内障確定例が0.72%で、疑いから確定に移行する割合は、一年あたり4.75%と報告しています。発症の危険因子として、高齢、ベースライン眼圧、高いBMI、高学歴、高いヘマトクリット値を挙げています。
血圧と原発開放隅角緑内障との関係について
以前当ブログでアップさせて頂いた通り、血圧と緑内障との関係ははっきりわかっていません。血圧が高いと眼圧もわずかながら上昇するということについては異論はないと思われますが、血圧が低いほど、おそらく視神経循環不全のために緑内障のリスクが高まるというパラドキシカルなデータもあります。多数の論文を検討したメタアナリシスを用いて解析した本論文によると、高血圧があると原発開放隅角緑内障のリスクは1.16倍高まり、収縮期血圧が10mmHg上昇すると眼圧は0.26mmHg、拡張期血圧においては、5mmHg上昇すると0.17mmHg眼圧が上昇すると報告しています。しかしながら、本論文で対象となった過去のデータは、精読してみますと眼圧が高いタイプの緑内障を対象としたスタディがほとんどで、日本人に多いと言われている正常眼圧緑内障において、同じことが言えるかどうかは不明であると考えます。