「眼についての最新情報」カテゴリーアーカイブ

OCTによる緑内障診断について

光干渉断層計(optical coherence tomograph; OCT)を用いた緑内障診断の有用性については沢山の報告があります。しかしながら、緑内障診療ガイドライン(第三版)でも記載があるように、OCTを含めた眼底三次元画像解析装置による緑内障診断においては、「視神経乳頭形態や神経線維層厚には個人差があり、緑内障眼と正常眼の間で測定された数値のオーバーラップがみられることや、解析装置の測定精度の限界などから、緑内障と正常を完全に分別することは未だ成功していない。自動診断プログラムが搭載されている装置における、緑内障診断の特異度、感度は80%前後と報告されており、緑内障の診断には経験を積んだ眼科専門医の最終判断が必要である。重要なことは、緑内障による質的眼底変化を検出することであり、器械に診断を任せることではない。したがって、現時点ではあくまで眼底三次元画像解析装置は補助的に用いられるべきものである。」とされています。これ以外の理由として、そもそも眼底三次元画像解析装置に内蔵されている健常または緑内障のデータベースは、視野所見も含めて診断がなされたものを対象としていますので、現在において緑内障の最終診断が視野所見に依存している以上、視野検査を上回るものではないと考えます。また、数μm単位の細かい眼球構造を解析していますので、ある程度のアーチファクトの影響を考慮する必要があります。

本論文では、OCTを用いた緑内障診断で、19.9~28.2%にアーチファクトがみられ、一番影響を与えたものは網膜上膜によるエラーだったと報告しています。

http://archopht.jamanetwork.com/article.aspx?articleID=1828639&utm_source=dlvr.it&utm_medium=facebook&utm_campaign=feed_posts%0A

緑内障診療における眼底撮影について

緑内障診療ガイドライン(第三版)によれば、緑内障診断において、「視神経乳頭あるいは網膜神経線維層の形態学的変化の検出はきわめて重要である。視神経乳頭や網膜神経線維層の障害所見は、緑内障の病期と関連するが、しばしば視野異常の検出に先立って検出される。特に正常眼圧緑内障では、眼底検査による視神経障害所見の検出が疾患の発見のきっかけとなることが少なくない」、としています。特に緑内障性視神経障害の代表的な所見である視神経乳頭陥凹拡大については、「三次元的に観察する立体的観察を推奨」しています。したがって、眼底写真を撮影する場合には、可能なら平面写真よりも立体写真撮影を行った方がよいと考えます。ただし、緑内障診療に習熟した医者においては、網膜血管の走行や視神経乳頭の色調などをもとに、平面写真であっても、高い精度で視神経乳頭陥凹拡大を診断することは可能であると考えます。

本論文では、緑内障専門医による緑内障診断力が、平面眼底写真と立体眼底写真とで異なるか?を調べましたが、大差はなかったと報告しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24508161

緑内障では、いつから視野障害が生じるのか?

おそらく多くの疾患では、形態的変化が生じたのちに機能障害が生じます。緑内障においても、まず視神経障害が生じてからしばらくして視野障害がみとめられることが多いと言えます。では、どのくらい形態的変化(視神経障害)が生じると、視野障害がみられるのでしょうか? 過去の報告では、おそらく30%くらいの網膜神経節細胞の消失があって、はじめて一般的な視野検査で異常がみられると言われてきましたが、個人差が大きく、また、視神経を定量的に評価する方法が一般化されておらず、はっきりしたことは分かりませんでした。

Spectralisという機種の光干渉断層計(Optical coherence tomograph: OCT)を用いた本論文では、視神経乳頭周囲の網膜神経線維層が89μmを下回ると、視野障害がみられると報告しております。そのような疾患が生じるか否かの一定の値(臨界点)を求める方法として、本論文ではbroken-stick法を用いています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24487047

 

sofZia®を用いた緑内障治療薬

緑内障診療ガイドライン(第三版)によれば、緑内障治療薬を用いた薬物治療の原則は、「必要最小限の薬剤と副作用で最大の効果を得ること」です。長期間にわたって緑内障治療を行うことで問題になるのは、薬物に含まれる防腐剤による角膜上皮障害やアレルギーが挙げられます。一般的な点眼液には塩化ベンザルコニウムが防腐剤として用いられていますが、トラバタンズR点眼液においては、sofZia®と呼ばれるイオン緩衝システムにより、細菌や真菌のエネルギー産生を阻害させます。そのため、本薬剤においては、上記副作用が少ないことが期待されます。 日本人の正常眼圧緑内障患者に対するトラバタンズR点眼の有効性と副作用の少なさを示した報告が発表されました。本研究は緑内障専門医がいる全国22施設の共同研究でしたが、当眼科八百枝医院も微力ながら研究に参加させていただきました。 Travoprost with sofZiaR preservative system lowered intraocular pressure of Japanese normal tension glaucoma with minimal side effects

脳脊髄液圧と緑内障

統計学的に眼圧が正常域に入る緑内障、正常眼圧緑内障においては、その視神経障害の機序として、低い脳脊髄液圧が近年指摘されるようになりました。つまり、脳脊髄液圧が低いと、眼圧が低くても視神経を支持する篩状板が湾曲し、視神経の軸索輸送障害→網膜神経節細胞の障害が生ずるということです。また、脳脊髄液圧は、BMI、年齢、血圧により換算され、この値は身長と正の相関を示します。

本論文は、高身長、低脳脊髄液圧、篩状板圧較差(眼圧―脳脊髄液圧)は緑内障の危険因子であったと報告しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24489767

エストロゲンと緑内障

エストロゲンは網膜神経節細胞の保護作用や眼圧下降作用があることが示唆されているホルモンのひとつです。

本論文では、閉経後の女性にエストロゲンによるホルモン治療が行われた群では、原発開放隅角緑内障発症の危険性が低かったと報告しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24481323

 

フルオロキノロン内服と網膜剥離の発症について

フルオロキノロンは眼科領域も含め、一般臨床で頻用されている抗生物質です。一昨年フルオロキノロン内服が網膜剥離発症頻度を高めるという論文が発表され、物議を醸しました。フルオロキノロンが角膜内皮障害を引き起こすなど、いくつかの細胞毒性の報告があったものの、眼内の奥にある網膜障害を引き起こすことに対して、にわかに信じ難かったからです。

最新の本論文は、その反証です。調査する母集団や統計学的手法などから、予想がつかない結果や、統一しない結果が出ることはよくあります。この研究についても、更なる検討が必要と考えます。

http://jama.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1785461

視覚における臨界期について

私たちの視力や両眼視機能の発達は1歳前後にピークがあり、その後8歳くらいまでしか育たないと言われています。それを臨界期と呼びます。臨界期の間に斜視や遠視、白内障などで視覚刺激が少なくなってしまった場合、視機能の発育が遅れ、弱視となってしまいます。そのため、臨界期までに良好な視力と両眼視機能の獲得が必要であり、例えば先天白内障を認めた場合、臨界期までに手術加療が必要と、眼科学的には考えられてきました。

本論文では、先天白内障例に対し、10代前後で白内障手術を行ったところ、明らかな視機能向上がみられたという報告です。従来考えられていた臨界期を超えても、視機能獲得のための治療は有効である可能性があるという結論です。

http://www.pnas.org/content/early/2014/01/15/1311041111

ビタミンDと緑内障

緑内障に有効なサプリメントについては沢山の報告があります。しかしながら、それらの多くは作用機序が不明であったり、統計学的検討が十分でなかったりで、決め手に欠けるところがあります。

本論文では、ビタミンDの欠乏と緑内障との間に相関があったとしています。しかしながら、多変量解析においては、交絡因子の関係などで、研究によっては、逆の結果がでることもありますので、今後の研究が待たれます。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24476947