「眼についての最新情報」カテゴリーアーカイブ

選択的レーザー線維柱帯形成術の安全性

選択的レーザー線維柱帯形成術(selective laser trabeculoplasty; SLT)は、房水の流出路である線維柱帯の老廃物を除去しながらも、線維柱帯自身には影響を与えない、安全な緑内障レーザー治療です。短期的には、一時的高眼圧や、前房内の炎症などの合併症があるくらいで、大きな合併症を起こしにくいことが知られています。ただし、治療効果の持続性が短いこと(その場合はレーザーを追加することがあります)や、仮にその後緑内障手術を行った場合に、若干手術成績が落ちるというデメリットもあります。

本論文では、原発開放隅角緑内障眼に対するSLTで、眼圧が平均19.1mmHgから、3カ月後に13.9mmHgまで低下しつつ、黄斑浮腫や前房内の炎症がみられなかったと報告しています。

http://journals.lww.com/glaucomajournal/Abstract/2014/02000/Adverse_Effects_and_Short_term_Results_After.8.aspx

眼圧と年齢

欧米人では加齢とともに眼圧は上昇する傾向があると言われている一方、1988~1989年に行われた日本人を対象とした大規模調査や、2000年~2002年に行われた日本初の眼科疫学調査である多治見スタディでは、加齢とともに眼圧が下がる傾向があることが横断的研究により示唆されました。

本論文では、10年間におよぶ縦断的研究の結果、日本人においては眼圧が下がることが改めて示され、従来より指摘されているように、眼圧に寄与する因子として、収縮期血圧、拡張期血圧、body mass indexが挙げられています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24590118

緑内障手術と血管内皮増殖因子阻害薬

1968年にCairnsが開発した線維柱帯切除術は、現在でも代表的な緑内障手術の一つとなっております。手術の原理は、房水を強膜のトンネルを通して結膜下に排出させることで、眼圧を下げるというものです。しかしながら、創傷治癒機転のために強膜トンネルが閉塞し、術後眼圧が上がることがあるため、創傷治癒機転を抑制するためにマイトマイシンCの術中塗布や5-Fuの術後結膜下注射を行うことが一般的ですが、逆に低眼圧になったり、稀に重篤な感染症を起こしたりすることが問題となっています。

近年、加齢黄斑変性などの治療に用いる血管内皮増殖因子阻害薬の結膜下注射をもちいることにより、創傷治癒機転を抑制させる治療が試みられています。本論文では、血管内皮増殖因子阻害薬を用いた緑内障手術は、従来の方法と同等の眼圧下降効果があった一方、網膜静脈閉塞などの重篤な合併症もみられたため、その使用には注意を要すると報告しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24563791

レイノー病と緑内障

古くから、レイノー病と緑内障に関係があることが示唆されています。レイノー現象とは、「寒冷時や冷水につかったときに四肢末梢部、とくに両手指が対称的に痛み、しびれ感とともに蒼白、あるいはチアノーゼなどの虚血症状をきたす」もので、末梢循環不全が緑内障の発症および病期の進行に影響を与えていると考えられています。レイノー現象を起こす人のうち、基礎疾患が不明なものをレイノー病と呼びます。院長が研修医だったころ、英国の著名な先生の講演で、「緑内障患者さんが来たら、先ずは握手をします!」と述べたことが印象に残っています。要は手が冷たいかどうかを確認するということです。レイノー現象を調べるには主には冷水負荷試験が行われ、冷水に手足を入れてサーモグラフィーで温度変化が大きくないかを観察します。

本論文は、緑内障患者に冷水負荷試験を行ったところ、健常者や高眼圧症患者に比し、網膜電図(心電図と同様に網膜の機能を電位変化で調べる検査)で低下していたことを報告しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24576876

近視眼の眼圧日内変動

眼圧は血圧や体温などと同様に、一日のうちに変動がみられます。一般的には夜間から早朝にかけて眼圧は高くなると言われ、また、緑内障眼では変動幅が大きいことが知られています。そのため、外来受診時の眼圧値が低いにもかかわらず、視野障害の進行がみられる場合には、検査入院のうえ、眼圧日内変動を調べることがあります。

本論文では、若年の強度近視を有する緑内障患者では、眼圧日内変動が少なく、夜間よりは日中に変動がみられることが多く、近視が強いほど夜間の眼圧変動は低いと報告しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24569578

抗血管内皮増殖因子阻害薬と緑内障

近年、加齢黄斑変性や網膜静脈閉塞に伴う黄斑浮腫に対する治療は、抗血管内皮増殖因子阻害薬の硝子体注射が主流となってます。本治療は、長期間の有効性が少ないため、繰り返し行うことが多いことが特徴となっています。昨年同薬の繰り返し投与で、眼圧が上がるという報告がなされました。

http://www.aaojournal.org/article/S0161-6420(11)00755-X/abstract

原因は、注射そのものの炎症や薬物毒性による線維柱帯の障害などが考えられていますが、最新の報告では、繰り返し投与自体は眼圧に影響しないことが示唆されました。しかしながら、一部の症例で眼圧が上がるため、モニタリングは必要となります。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24561173

片頭痛と緑内障

緑内障の発症および病期の進行に、眼循環や全身循環の低下が関与されていることが多くの報告で示唆されています。古典的に片頭痛と緑内障の関係についての報告もいくつかあります。一般的に片頭痛は頭部や三叉神経を栄養する血管が拡張することにより生じることが言われていますが、このような循環の変化が大きい人は緑内障になりやすいと考えられています。

本論文では、眼組織の深部である脈絡膜(血管が豊富な組織)を観察できる新しい光干渉断層計(enhanced depth imaging optical coherence tomograph)を用いて、片頭痛患者の脈絡膜厚を測定したところ、発作時や頭痛が起こった側の眼の脈絡膜厚が厚くなっていることを報告しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24574436

 

 

白内障手術の精度

白内障手術は、濁った水晶体を除去して、人工の眼内レンズに入れ替える手術ですが、眼内レンズの度数については、患者さんの希望などに応じて術前に予測して決定されます。しかしながら、術後に予測値からはずれてしまい、強い度数の眼鏡装用が必要なケースもあります。ただし、近年では、検査機器の精度の向上や、度数の換算式の改良などにより、そのような度数のずれを起こすケースが少なくなっています。

本論文では、白内障術後90日以内には94%の例で、術前に予測した度数にほぼ合致した度数が得られたと報告しています。

http://www.aaojournal.org/article/S0161-6420(13)00842-7/abstract

血管新生緑内障の治療

血管新生緑内障とは、糖尿病網膜症や網膜中心静脈閉塞症などの眼虚血性疾患において、虚血状態を補償するために新生血管や膜状物質が発生し、それらが房水の出口である隅角部を覆い、房水が排出されないために生ずる難治緑内障です。血管新生緑内障の治療として、緑内障診療ガイドライン(第三版)では、原疾患の治療(レーザーなど)のほか、「原発開放隅角緑内障に準じて薬物治療を行うが、…血管新生緑内障に対して抗血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor: VEGF)薬の眼内投与の有効性が報告されており、短期的な症状緩和や手術成績の向上に有効である。」、「線維柱帯切除術(代謝拮抗薬併用/非併用)を行う。レーザー線維柱帯形成術は無効であるばかりではなく有害である。」としています。

本論文は、抗VEGF抗体の点眼により、眼圧下降に一定の効果がみられ、かつ新生血管の退縮も一部にみられたと報告しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24556733

 

 

白内障術後の眼圧上昇

一般的に白内障手術後は、隅角開大やチン氏帯のテンションの変化などのため眼圧が下降することが多いのですが、症例によっては逆に眼圧が上がってしまうことがあります。本論文では、1270眼中、12眼が眼圧上昇し、何らかの処置を施したと報告していますが、眼圧上昇の理由は術後の消炎のためのステロイド使用、糖尿病患者の瞳孔ブロック、残余皮質などを挙げています。緑内障手術既往眼、特に若年の強度近視、糖尿病患者に白内障手術を行う場合は注意を要すると結論付けています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24557756