「眼についての最新情報」カテゴリーアーカイブ

Random forestを用いた緑内障診断

緑内障診断についての難しさは以前述べたことがあります。緑内障診断には眼圧、眼底所見、視野所見が欠かせませんが、例えば眼圧が日本人の平均値である15mmHgであっても正常眼圧緑内障の可能性があります。眼底所見にしても、健常眼の視神経乳頭形状や網膜神経線維層厚にはかなりの相違があり、「この数値を下回ったら緑内障」という診断は困難です。視野所見が最終的な確定診断になりえますが、検査時間が長く、患者さんに負担がかかり、検査ごとの測定値の変動が大きいことが知られています。

共焦点レーザー検眼鏡、Heidelberg Retina Tomograph (HRT)は立体的に視神経周囲の眼底形状の計測が可能な器械で、1990年代に開発されて以降、今でも緑内障診断に有用な検査機器です。本器械はいくつもの計測パラメータが算出されますが、各パラメータ単独での緑内障診断力は低く、また、専門家でないと判断し難いところがあり、それらパラメータを組み合わせた判別式や、machine learning classifierといった人口知能を用いた緑内障診断法も開発されましたが、立体眼底写真を用いた緑内障専門医による診断の方が良好という報告もあり、有用とは言い難いものがありました。

本論文は、決定木という、沢山のパラメータをyes/noで分類していき、それをbootstrappingという観察集団のサブグループで決定木を多数作成するrandom forest法を用いることにより、HRTによる緑内障診断が格段に向上したと報告しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24609628

傍中心暗点を有する緑内障眼の特徴

緑内障治療において大切なことの一つは、患者さんが如何に自覚症状がない状態で一生をすごしてもらうか、ということです。視神経障害や視野障害は不可逆的なものであり、そのため早期発見早期治療が大事になりますが、なかでも傍中心暗点を有する患者さんは自覚症状を起こしやすいため、なおさら早期発見が大切になります。

本論文は傍中心暗点を有する緑内障患者さんの眼底所見を、他眼と比較したものです。両眼とも眼圧が同じであっても、傍中心暗点を有する眼では、より強い視野障害があり、乳頭出血(特に正常眼圧緑内障で、視神経障害、視野障害が生じる前にみられる眼底所見)が多く、網膜神経線維層欠損の幅が広く、網膜中心動静脈の幹がより垂直方向に移動しており、多変量解析では、この幹が水平垂直方向に移動していた、と報告しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24595065

皮膚充填剤による失明

皮膚のしわを目立たなくさせるために用いる皮膚充填剤(フィラー)を前頭部に用いた場合、網膜中心動脈に迷入することが稀にあり、失明したという症例報告がありました。フィラーの使用には十分留意して下さい。

http://archopht.jamanetwork.com/article.aspx?articleID=1838342&utm_source=dlvr.it&utm_medium=facebook&utm_campaign=feed_posts%0A

選択的レーザー線維柱帯形成術の安全性

選択的レーザー線維柱帯形成術(selective laser trabeculoplasty; SLT)は、房水の流出路である線維柱帯の老廃物を除去しながらも、線維柱帯自身には影響を与えない、安全な緑内障レーザー治療です。短期的には、一時的高眼圧や、前房内の炎症などの合併症があるくらいで、大きな合併症を起こしにくいことが知られています。ただし、治療効果の持続性が短いこと(その場合はレーザーを追加することがあります)や、仮にその後緑内障手術を行った場合に、若干手術成績が落ちるというデメリットもあります。

本論文では、原発開放隅角緑内障眼に対するSLTで、眼圧が平均19.1mmHgから、3カ月後に13.9mmHgまで低下しつつ、黄斑浮腫や前房内の炎症がみられなかったと報告しています。

http://journals.lww.com/glaucomajournal/Abstract/2014/02000/Adverse_Effects_and_Short_term_Results_After.8.aspx

眼圧と年齢

欧米人では加齢とともに眼圧は上昇する傾向があると言われている一方、1988~1989年に行われた日本人を対象とした大規模調査や、2000年~2002年に行われた日本初の眼科疫学調査である多治見スタディでは、加齢とともに眼圧が下がる傾向があることが横断的研究により示唆されました。

本論文では、10年間におよぶ縦断的研究の結果、日本人においては眼圧が下がることが改めて示され、従来より指摘されているように、眼圧に寄与する因子として、収縮期血圧、拡張期血圧、body mass indexが挙げられています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24590118

緑内障手術と血管内皮増殖因子阻害薬

1968年にCairnsが開発した線維柱帯切除術は、現在でも代表的な緑内障手術の一つとなっております。手術の原理は、房水を強膜のトンネルを通して結膜下に排出させることで、眼圧を下げるというものです。しかしながら、創傷治癒機転のために強膜トンネルが閉塞し、術後眼圧が上がることがあるため、創傷治癒機転を抑制するためにマイトマイシンCの術中塗布や5-Fuの術後結膜下注射を行うことが一般的ですが、逆に低眼圧になったり、稀に重篤な感染症を起こしたりすることが問題となっています。

近年、加齢黄斑変性などの治療に用いる血管内皮増殖因子阻害薬の結膜下注射をもちいることにより、創傷治癒機転を抑制させる治療が試みられています。本論文では、血管内皮増殖因子阻害薬を用いた緑内障手術は、従来の方法と同等の眼圧下降効果があった一方、網膜静脈閉塞などの重篤な合併症もみられたため、その使用には注意を要すると報告しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24563791

レイノー病と緑内障

古くから、レイノー病と緑内障に関係があることが示唆されています。レイノー現象とは、「寒冷時や冷水につかったときに四肢末梢部、とくに両手指が対称的に痛み、しびれ感とともに蒼白、あるいはチアノーゼなどの虚血症状をきたす」もので、末梢循環不全が緑内障の発症および病期の進行に影響を与えていると考えられています。レイノー現象を起こす人のうち、基礎疾患が不明なものをレイノー病と呼びます。院長が研修医だったころ、英国の著名な先生の講演で、「緑内障患者さんが来たら、先ずは握手をします!」と述べたことが印象に残っています。要は手が冷たいかどうかを確認するということです。レイノー現象を調べるには主には冷水負荷試験が行われ、冷水に手足を入れてサーモグラフィーで温度変化が大きくないかを観察します。

本論文は、緑内障患者に冷水負荷試験を行ったところ、健常者や高眼圧症患者に比し、網膜電図(心電図と同様に網膜の機能を電位変化で調べる検査)で低下していたことを報告しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24576876

近視眼の眼圧日内変動

眼圧は血圧や体温などと同様に、一日のうちに変動がみられます。一般的には夜間から早朝にかけて眼圧は高くなると言われ、また、緑内障眼では変動幅が大きいことが知られています。そのため、外来受診時の眼圧値が低いにもかかわらず、視野障害の進行がみられる場合には、検査入院のうえ、眼圧日内変動を調べることがあります。

本論文では、若年の強度近視を有する緑内障患者では、眼圧日内変動が少なく、夜間よりは日中に変動がみられることが多く、近視が強いほど夜間の眼圧変動は低いと報告しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24569578

抗血管内皮増殖因子阻害薬と緑内障

近年、加齢黄斑変性や網膜静脈閉塞に伴う黄斑浮腫に対する治療は、抗血管内皮増殖因子阻害薬の硝子体注射が主流となってます。本治療は、長期間の有効性が少ないため、繰り返し行うことが多いことが特徴となっています。昨年同薬の繰り返し投与で、眼圧が上がるという報告がなされました。

http://www.aaojournal.org/article/S0161-6420(11)00755-X/abstract

原因は、注射そのものの炎症や薬物毒性による線維柱帯の障害などが考えられていますが、最新の報告では、繰り返し投与自体は眼圧に影響しないことが示唆されました。しかしながら、一部の症例で眼圧が上がるため、モニタリングは必要となります。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24561173

片頭痛と緑内障

緑内障の発症および病期の進行に、眼循環や全身循環の低下が関与されていることが多くの報告で示唆されています。古典的に片頭痛と緑内障の関係についての報告もいくつかあります。一般的に片頭痛は頭部や三叉神経を栄養する血管が拡張することにより生じることが言われていますが、このような循環の変化が大きい人は緑内障になりやすいと考えられています。

本論文では、眼組織の深部である脈絡膜(血管が豊富な組織)を観察できる新しい光干渉断層計(enhanced depth imaging optical coherence tomograph)を用いて、片頭痛患者の脈絡膜厚を測定したところ、発作時や頭痛が起こった側の眼の脈絡膜厚が厚くなっていることを報告しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24574436