「眼についての最新情報」カテゴリーアーカイブ

正常眼圧緑内障眼における中心視野障害と血流の自動調節能

緑内障診療ガイドライン(第三版)において、眼圧が統計学的な正常値に留まる正常眼圧緑内障においては、主に「視神経の眼圧に対する脆弱性には個体差があり、特定の眼圧値により原発開放隅角緑内障と正常眼圧緑内障を分離できないため、両者を包括した疾患概念として原発開放隅角緑内障(広義)と」しています。しかしながら、正常眼圧緑内障においては、眼圧以外の種々の因子により視神経障害、視野障害を来している可能性の存在は、現在に至るまで多くの報告があります。視野異常については、正常眼圧緑内障では、原発開放隅角緑内障(広義)と比べてより中心視野が障害を受けやすいと言われています。また、眼循環や全身循環の影響を受けやすいとも言われており、本来あるべき網膜血管の自動調節能(眼圧の上下により血流が変化しにくい)が低下していたり、片頭痛や起立性低血圧が多いことも示唆されています。

本論文では、正常眼圧緑内障眼において、中心視野障害がある例では、周辺視野障害がある例と比べて、心拍数の変動が大きく、上述した自動調節能が低下している可能性を示唆しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24692126

原発閉塞隅角症眼の脈絡膜厚について

緑内障診療ガイドライン(第三版)によれば、原発閉塞隅角症とは、「原発性の隅角閉塞があり、眼圧上昇または器質的な周辺虹彩前癒着を生じているが緑内障性視神経症は生じていない症例」と定義されており、すなわち原発閉塞隅角緑内障になる一段階手前の状態と定義しています。一方、米国眼科学会や欧州緑内障学会の緑内障ガイドラインの定義では、包括的に原発閉塞隅角症というカテゴリーがあり、その中に原発閉塞隅角緑内障が定義されています。本論文は海外論文ですので、後者の定義に準じて記載します。

原発閉塞隅角症は、水晶体の膨隆や前方移動、虹彩厚の厚み、毛様体の腫脹や前方回転、ぶどう膜滲出などにより惹起されると考えられており、その中で、脈絡膜の厚みの増加も示唆されています。本論文では、年齢や眼軸長、性差を補正したうえで、原発閉塞隅角症では、黄斑部の脈絡膜厚が健常眼に比して厚かったと報告しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24697943

正常眼圧緑内障患者の長期経過

本論文では、正常眼圧緑内障411症例623眼を10年以上経過観察できた症例のうち(初診時は自覚症状なし)、視覚障害(WHOの基準に準じてますが、失明は視力0.05未満または中心視野10度以内、ロービジョンは視力0.3未満または中心視野20度以内と定義)が20症例16眼(失明8眼、ロービジョン12眼)であったと報告しています。視覚障害の最大の危険因子は初診時の視野障害の程度とのことです。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24698142

網膜静脈拍動と乳頭出血

眼底を精査すると網膜静脈の拍動をみかけることがあります。古典的には、拍動がなかった場合に、頭蓋内圧亢進を疑う必要があると言われており、眼循環の低下のサインとも考えられています。一方、乳頭出血は緑内障の発症や病期の進行を示唆する重要な所見であるものの、網膜神経節細胞の障害に伴い発生する所見なのか、出血後の循環不全に伴い、網膜神経節細胞が障害されるのか未だはっきりとはわかっておりません。

本論文では、網膜静脈の拍動は開放隅角緑内障眼の60.7%にみられ、拍動がみられなかった例では、低い未治療時眼圧、眼軸長、視野障害と関連があったものの、乳頭出血とは関連がなかったと報告しております。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24699377

睡眠時の体位による緑内障性視野障害の違い

一般的に原発開放隅角緑内障においては、片眼性であることは少なく、視神経や視野障害の程度、更には障害の進行速度にも左右眼で類似する傾向にあることはよく知られています。一方で、稀に左右眼同等の眼圧であっても、視神経、視野障害に左右眼で大きな差がみられる症例もみることがあります。

本論文では、視野障害の程度に差がある症例において、視野が悪い方の眼を下にした側臥位をとって睡眠する傾向があったと報告しています。最近の他の報告でも、下の方の眼が眼圧が高めであることが示されており、そのようなことが理由と考えられます。

http://www.ajo.com/article/S0002-9394(13)00786-1/abstract

視力障害と生活習慣

Beaver Dam Eye Studyという、5000人(43歳~84歳)を対象とした大規模な前向き研究が、アメリカで行われており、現在まで多数の有益なデータが公表されています。米国眼科学会によると、本研究で、1988年~2013年まで、視力障害の発症率と生活習慣の関連について調べた結果、この20年間強の間で視力障害の発症率は5.4%で、座る生活が多い人では6.7%の人が視力障害になったのに対し、週3回以上運動する習慣があった人は2%のみが視力障害になったと報告しています。また、非飲酒者の視力障害発症率は11%であるのに対し、週1回未満の機会飲酒者の発症率は4.8%であったと報告しています。

http://www.aao.org/newsroom/release/physical-activity-occasional-drinking-decrease-vision-impairment-risk.cfm

 

 

閉塞隅角緑内障眼の屈折について

眼の屈折をおおざっぱに区分すれば、近視は眼球が大きいために入射光の焦点が網膜面より手前にある状態で、遠視はその逆となります。そのため一般的には遠視は眼球が小さいために、房水流出路である隅角もコンパクトで、狭いことが多く、流出路抵抗が上昇しやすいため、閉塞隅角緑内障眼になりやすいと言われています。とは言え、近視眼の閉塞隅角緑内障も、実際には散見され、そのような例では、眼球が大きいにもかかわらず、狭隅角であったり、浅前房であったりします。

本論文では、アジア人の閉塞隅角緑内障眼をしらべたところ、22%が近視であったことを報告しています。アジア人は他の人種に比べて近視が多いことが知られており、かつ経年的に近視化が進んでいるため、近視眼の閉塞隅角緑内障が増加してくることが予想されます。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24679835

 

開放隅角緑内障患者における散瞳後の眼圧変化について

眼科診療において、検査や治療のために薬物により瞳孔を散大させることはよく行われていることです。原発閉塞隅角症においては、散瞳後に急激な眼圧上昇を来す急性緑内障発作を起こしうるので、注意が必要です。一方で、開放隅角緑内障眼や健常眼においても眼圧が変化しうることも知られています。

本論文では、落屑緑内障、原発開放隅角緑内障および健常眼において、散瞳前後の眼圧変化を調べたところ、平均値では健常眼で散瞳後に低下したものの緑内障眼では変化がなく、また、落屑緑内障眼の28.3%、原発開放隅角緑内障眼の16.7%で眼圧上昇がみられたことを報告しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24682599

アメリカにおける失明原因(人種による違いについて)

アメリカは代表的な多民族国家で、同じ生活環境で、人種による疾病や治療効果の違いを調べるために、疫学的には有用な調査場所と言えます。現時点において、白人やヒスパニックの失明原因の第一位は加齢黄斑変性で、アフリカ系アメリカ人では白内障が一位になっています。また、アフリカ系アメリカ人やヒスパニックでは、白人よりも緑内障による失明者が多いことが特徴で、今後アメリカでは、白人の人口が減少するに伴い、緑内障有病率が上昇することが予想されています。

http://one.aao.org/eye-disease-statistics