緑内障という疾患はcontinuum(連続体)であると言われており、網膜神経節細胞の死から始まり、網膜や視神経乳頭などの形態の変化、視野障害の出現とその進行、自覚症状の出現ののち、失明に至る経過をたどります。従って、どの時点から「緑内障」であるか、は人為的に決定されたもので、一般的には標準的に用いられている視野検査で緑内障の特徴的所見が出始めた時から、と言われています。従来まで、形態と視野、視野と自覚症状との間には強い相関があるという報告が多数なされてきましたが、本論文では、網膜神経線維層厚と自覚症状との間に相関があったと報告しています。
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最も眼圧が上昇する行為は?
緑内障診療ガイドライン(第三版)によれば、「緑内障に対するエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は眼圧を下降すること」と記載がなされています。日常生活において、最も眼圧が上昇する行為は、おそらく倒立と考えられていて、40mmHgにまで及ぶことがあると言われています。健常者を対象とした過去の論文では、Sirsasanaと呼ばれるヨガの倒立の体位においても、眼圧がおおよそ2倍になると報告しています。
角膜ヒステリシスと緑内障
ヒステリシスとは、物質の状態が、現在の条件だけでなく、過去の経路の影響を受ける現象の事を言います。角膜に空気圧をかけると、圧平状態を経てわずかに窪み、その後再び圧平状態を経て角膜形状は復元されます。一般的にはこの復元の程度を角膜ヒステリシスと呼び、眼球弾性と関連するため、眼圧値そのものや、眼圧が視神経および篩状板に及ぼす力に影響を与えているものと考えられております。すなわち、角膜ヒステリシスが低ければ、低い眼圧でも視神経障害が生じやすいと考えられています。
正常眼圧緑内障を対象とした本論文では、視野障害進行と角膜ヒステリシスに関連があったと報告しています。
緑内障性視神経症はどの部位から先行して生ずるか?
古典的に緑内障性視神経症は、眼圧によって視神経乳頭部で篩状板部にずれが生じ、視神経が絞扼され障害が起きるとされています。一方で、現在の世界的な緑内障の定義としては、視神経症の存在が前提として存在し、眼圧は緑内障の最大のリスクファクターであるとする考えでほぼ統一されていると思われます。また、臨床的に、視神経乳頭の変化に比べて、網膜神経線維層欠損の方が先行して生ずる例も散見され、どの部位から視神経症が生ずるかは、再考される必要があるかと思われます。本論文では、緑内障眼において共焦点走査型レーザー検眼鏡による視神経乳頭の観察と、光干渉断層計を用いた網膜神経線維層の観察を4.5年間経時的に観察したところ、ほとんどの例で視神経乳頭の形状変化が先行してみられ、網膜神経線維層の変化とは3年のタイムラグがあると報告しています。
http://www.aaojournal.org/article/S0161-6420(14)00569-7/abstract
5年間の緑内障の発症率について
横断的研究である緑内障の有病率の研究については、多数の報告がなされていますが、縦断的研究については極めて少なく、貴重なデータと言えます。韓国で行われた研究によると、5年間で、原発開放隅角緑内障疑いの発症率は0.84%、緑内障確定例が0.72%で、疑いから確定に移行する割合は、一年あたり4.75%と報告しています。発症の危険因子として、高齢、ベースライン眼圧、高いBMI、高学歴、高いヘマトクリット値を挙げています。
血圧と原発開放隅角緑内障との関係について
以前当ブログでアップさせて頂いた通り、血圧と緑内障との関係ははっきりわかっていません。血圧が高いと眼圧もわずかながら上昇するということについては異論はないと思われますが、血圧が低いほど、おそらく視神経循環不全のために緑内障のリスクが高まるというパラドキシカルなデータもあります。多数の論文を検討したメタアナリシスを用いて解析した本論文によると、高血圧があると原発開放隅角緑内障のリスクは1.16倍高まり、収縮期血圧が10mmHg上昇すると眼圧は0.26mmHg、拡張期血圧においては、5mmHg上昇すると0.17mmHg眼圧が上昇すると報告しています。しかしながら、本論文で対象となった過去のデータは、精読してみますと眼圧が高いタイプの緑内障を対象としたスタディがほとんどで、日本人に多いと言われている正常眼圧緑内障において、同じことが言えるかどうかは不明であると考えます。
妊娠と眼圧
http://www.jcrsjournal.org/article/S0886-3350(14)01100-6/abstract緑内障治療薬の多くは妊娠中は慎重投与となるため、緑内障患者に対する治療に難渋することがありますが、幸いなことに、妊娠中は眼圧が下がることが知られています。理由はホルモンの関係が考えられています。本論文では、妊娠中は角膜形状が変化していることを示し、そのために眼圧値が低めに出る可能性を示唆しています。
世界の緑内障の有病率について
緑内障の有病率は加齢とともに増加することが知られています。本研究は、過去のデータをメタアナリシスで解析し、世界における現在の緑内障の有病率と、高齢化および人口増加が進む将来の有病率の予測を行ったものです。
現在、世界の緑内障有病率は3.54%で、原発開放隅角緑内障はアフリカ人に多く、原発閉塞隅角緑内障はアジア人に多いとのことです。2013年の時点で、世界の緑内障患者は6430万人で、2020年には7600万人、2040年には11180万人に増加することが予測されます。原発開放隅角緑内障において、男性は女性よりも多く、都会生活者は郊外居住者よりも多かったということです。
http://www.aaojournal.org/article/S0161-6420(14)00433-3/abstract
i Padを用いた緑内障スクリーニングについて
緑内障性視神経障害または視野障害は、一般的に不可逆的なものなので、緑内障を早期に発見することは視機能障害を防ぐために極めて重要です。しかしながら、緑内障診断には特殊な検査が必要なことから、眼科受診やドック、健診などの機会がない場合には、緑内障を早期に発見することは困難と言えます。米国眼科学会のサイトによると、ネパールの緑内障患者を対象とした研究で、「visual field easy」というi Pad アプリを用いることで、眼科で通常行われる視野検査と51-79%の一致がみられたとする報告を紹介しています。このようなi Padアプリを用いた緑内障スクリーニングは、十分とは言えないまでも、有用である可能性があります。
http://www.aao.org/newsroom/release/ipadscreenings-effective-for-detecting-early-signs-of-glaucoma-in-underserved-high-risk-populations.cfm
https://itunes.apple.com/jp/app/visualfields-easy/id495389227?mt=8
緑内障による視機能障害は眼圧を下げることで改善しうるか?
緑内障の本態は緑内障性視神経症であり、疾患により生じた視機能障害(視野障害)は原則不可逆的と考えられています。一方で、エビデンスのある唯一の治療法である眼圧下降治療で、わずかですが視野障害やコントラスト感度の向上がみられることもいくつかの報告によって示されています。この視機能の向上は、可逆的な網膜神経節細胞の存在によるものか、眼圧を下げること自体が健常な網膜神経節細胞の機能を向上させているのかはわかっていません。本論文は、統計学的に高い眼圧を有しながら、視神経障害、視野障害がみられない、所謂高眼圧症の症例に対して、眼圧下降治療で視野検査の感度が向上するかを調べたもので、感度が向上しなかったことから、緑内障患者における視機能向上は、視機能障害そのものを改善させている可能性があることを示唆しています。
http://www.aaojournal.org/article/S0161-6420(14)00361-3/abstract