「緑内障」カテゴリーアーカイブ

日本人における新規緑内障患者に対する緑内障治療薬のアドヒアランス

以前、緑内障治療薬に対するアドヒアランス(患者も治療方法の決定過程に参加した上、 その治療方法を自ら実行すること)は極めて低く、治療後6カ月で50%、3年で37%、治療薬を毎日欠かさず行っている例は10%以下であると述べました(Nordstrom 2005)。

最新の日本人のデータは、かなり良好で、3カ月で73.2%、3年で52.5%という報告がなされました。日本人が緑内障、ひいては眼科治療に積極的だということを示すデータと思います。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24408788

緑内障眼に対する白内障手術

「緑内障があっても白内障手術はできますか?」と聴かれることがよくあります。基本的には可能ですし、一般的には眼圧がわずかながら下がるので、むしろ勧めることもあるくらいです。しかしながら注意すべき点は、逆に白内障手術後眼圧が上がる例もみられることです。

本研究では、緑内障眼に白内障手術を行ったところ、術前平均眼圧が16.3mmHgだったのが、術後14.5mmHgに下がったものの、38%で眼圧コントロールが悪くなったと報告がなされました。術後の低い眼圧と関連する因子は、術後に薬物の変更がない、術前高眼圧、高齢、深い前房とのことです。

http://www.ajo.com/article/S0002-9394(13)00583-7/abstract

緑内障診療の進歩

アメリカでの研究ですが、1965年~1980年に緑内障と診断され、1995年まで追跡調査を行った結果、少なくとも片眼が失明したのは25.8%であったのに対し、1981年~2000年に緑内障と診断され、2009年まで追跡調査を行った例では13.5%に減じていた、とのことでした。主因は緑内障治療の進歩と位置付けていますが、未だ失明例が多いことにも注意すべきです。

http://www.aaojournal.org/article/S0161-6420(13)00808-7/abstract

緑内障では、環境によってみえ方が違うか?

緑内障外来において、患者さんの眼圧が高いために検査入院して頂くと、眼圧が下がっていることがよくあります。この場合はアドヒアランスが原因と思われますが、環境に応じて検査データが異なることはあらゆる疾患でみられることと思います。

本論文では、緑内障患者において、家と病院とでみえ方を比較したところ、病院の方がよくみえたという報告です。原因は照明の明るさとのことですが、このように、病院でいいデータが出たとしても、患者さんの日常生活には影響が出ている可能性があることを、医者は勘案する必要があります。

http://archopht.jamanetwork.com/article.aspx?articleID=1779718&utm_source=dlvr.it&utm_medium=facebook&utm_campaign=feed_posts%0A

体重と緑内障

過去にライフスタイルと緑内障について前向きに調べた大規模スタディがあります。社会的経済的地位や飲酒、喫煙、肥満などと緑内障について調べたところ、多くの因子で関連はみられなかったものの、女性については、肥満(BMIが高い)と眼圧に正の相関があったものの、逆に肥満と緑内障の発症には負の相関があったという結論です。相反している結果ですが、院長の経験上も、同じような印象を持っております。理由は不明ですが、体重が軽いほど、視神経に至る栄養が少なくなる可能性があるということでしょうか?

今後更なる研究が行われると思われますし、日本人では違った結果も出てくるかもしれません。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21320952

眼圧ってどのくらいだといいのですか?

緑内障治療薬を開始した患者さんからよく聴かれる質問です。原則的に眼圧が下がればそれだけ視神経障害進行のリスクが低下するため、下がれば下がるほどいいのですが、そのためには薬物の多剤併用やレーザー、手術などのコストがかかったり侵襲があったりする治療が必要となるので、「必要最小限の薬剤で最大の効果」を得るために、目標眼圧を設定することがよくあります。目標眼圧の設定にあたっては、「視神経障害の進行を阻止しうる眼圧を前もって正確に知ることは困難ではあるが、治療を開始するにあたっては、緑内障病期、無治療時眼圧、余命や年齢、視野障害進行、家族歴、他眼の状況などの危険因子を勘案し、症例ごとに」設定します。具体的な例としては、「初期例19mmHg以下、中期例16mmHg以下、後期例14mmHg以下というように設定することが提唱されている。また、各種のランダム化比較試験の結果をもとに、無治療時眼圧から20%の眼圧下降、30%の眼圧下降というように、無治療時眼圧からの眼圧下降率を目標として設定することが推奨されて」ますので、それに準じて行うことが多いと思われます。海外での報告では、正常眼圧緑内障患者さんのベースライン眼圧から30%低下させた群では、視野障害進行が12%のみにみられたのに対し、無治療群では、35%に進行がみられたとしています。

緑内障診療ガイドライン(第三版)

ベースラインデータの設定

以前より述べている通り、「緑内障の本態は進行性の網膜神経節細胞の消失とそれに対応した視野異常である緑内障性視神経症(glaucomatous optic neuropathy)」であり、網膜神経節細胞は年齢とともに健常人であっても減少するため、多くの場合、何らかのきっかけで眼科を受診し、「緑内障」の診断を受けた場合であっても、それは昨日今日「緑内障」になった訳ではなく、そこに至る長い半生の間に少しずつ網膜神経節細胞が障害を受けたということになります。従いまして、緑内障患者さんに対峙した際に、医者としては、その方の過去を知ることは不可能ですが、短期間無治療で経過をみることで、その方の将来を類推し、治療することがよくあります。つまり、ベースラインデータを取得するために、無治療のまま2~3回受診して頂き、検査のみを行うことがあります。患者さんとしては、「緑内障と診断しているのに何もしてくれない」と不安に思うかもですが、以上のような事情があるからです。

眼圧にしろ、視野にしろ、疾患による変動以外に、測定誤差や日内・季節変動があり、それを見極めたうえで治療しないと、以後の診断の判定が困難になったり間違ったりすることがありえます。よって、複数回無治療時の眼圧、視野検査を行うことが有用となります。

緑内障診療ガイドライン(第三版)

 

居住地域と緑内障

院長の経験、あるいは他の緑内障専門医との会話の中で、「都会で生活している人」、「高学歴な人」、「神経質な人」は緑内障(原発開放隅角緑内障(広義))が多いと感じていました。

本論文では、都会生活者の方が、田舎で生活している人よりも眼圧が高いという結果を示しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22503693

視野検査の信頼性

緑内障の診断や治療方針の決定に、定期的な視野検査は必須ですが、患者さんの体調や性格などの理由で、固視点をみないで、指標を追視してしまう、みえるはずの指標に反応しない、逆にみえていないはずの指標に反応する、等のエラーがどうしても生じてしまいます。大きいエラーですと、信頼性のない検査として、再検査を求められたり、検査結果を破棄してしまったりすることがあります。しかしながら、それらの行為は手間とコストなどの面から、避けたい問題ではあります。

本論文では、事後確率を算出するナイーブベイズ法を用いた補正を使って、通常では破棄する視野検査結果の有用性を高めることができた、としています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24382423