「緑内障」カテゴリーアーカイブ

多焦点眼内レンズと視野

今日においても、多くの白内障手術では、濁った水晶体を超音波乳化吸引装置で摘出し、代わりに挿入する人工レンズ(眼内レンズ)は、単焦点眼内レンズです。すなわち、若い頃のようにみたいすべての距離にピントが合うのではなく、ある1点にピントが合うレンズです。したがって、ピントが合う距離以外みたいときには、ほとんどの場合、眼鏡が必要となります。例として、遠くが見えるような度数の単焦点眼内レンズを挿入した患者さんは、運転やゴルフは眼鏡なしでいいのですが、近くの字を読みたい時などには近用眼鏡(いわゆる老眼鏡)が必要です。
近年、多焦点眼内レンズを用いることにより、遠近ともみえることができ、眼鏡に依存しない日常生活が可能なケースが増え、QOL(quality of life)の向上が期待されます。

しかしながら、欧州緑内障学会の報告によれば、緑内障患者に多焦点眼内レンズを挿入した場合、視野全体の感度の低下がみられるため、白内障手術後の眼科検査の一つとして、早急に視野検査を行い、新たなベースラインデータを作成することを推奨しています。

http://www.eugs.org/eng/tips_showtip.asp?id=2205

レーザー虹彩切開術と角膜内皮細胞

レーザー虹彩切開術は、閉塞隅角緑内障に対し、「瞳孔ブロックを解除し前後房の圧差を解消して隅角を開大する」目的で行われ、緑内障診療ガイドライン(第三版)においては、「瞳孔ブロックによる原発ならびに続発閉塞隅角緑内障では第一選択の治療である。プラトー虹彩が疑われる症例に対して瞳孔ブロックの要素を除去する目的で行ってもよい。」と記載されています。しかしながら、稀に角膜内皮細胞が障害され、水疱性角膜症という重篤な合併症を起こすことがあり、治療の適応は慎重に考慮すべきです。

本論文では、原発閉塞隅角症疑い(原発性の隅角閉塞があり、眼圧上昇も、器質的な周辺虹彩前癒着も緑内障性視神経症も生じていない例)の片眼に、予防的レーザー虹彩切開術を行ったところ、3年後に角膜内皮細胞の減少がみられたものの、未治療眼にも減少がみられ、両眼間で減少の程度に差がなかったと報告しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23203700

視野検査後の眼圧上昇

緑内障患者さんの経過をみていくうえで、治療を変更するきっかけになるきっかけは、多くは視野検査結果と思われます。一般的に緑内障性視野障害は、十分な治療を行っても、徐々に進行していくことが多く、その場合であっても将来的に視機能に問題がない(自覚症状に変化が生じない)であろうと判断されれば、治療方針を変更しないのですが、過去の視野検査結果から、著しい視野障害の進行や、視機能に影響する中心近くの視野障害の進行、新規に暗点が生じる、などの変化を認めれば、より強力な眼圧下降治療を行うことになるかと思われます。そのほか、眼圧についても、治療薬に効果がない、目標眼圧に到達しない、眼圧上昇がみられる、副作用が出現する、などのきっかけで治療を変更することがあります。

本論文では、視野検査を行った後の眼圧は、普段の外来受診時の眼圧よりも高かったと報告しています。理由はストレスなどではないかとのことです。よって、視野検査直後の眼圧値を基に治療方針を判断しない方がいいだろうとの結論です。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21673592

続発緑内障について

一般的に「緑内障」というと原発開放隅角緑内障(広義)をイメージするかと思われます。また、風邪薬などの添付文章などで「緑内障の方は注意ください」などと書かれる場合には、原発閉塞隅角緑内障を想定します。これらの緑内障は、「緑内障性視神経症」の有り無しで緑内障かどうかの診断がなされます。

一方、少ない割合ですが、続発緑内障と呼ばれる一群があります。本疾患は、「他の眼疾患、全身疾患あるいは薬物使用が原因となって眼圧上昇が生じる緑内障」なのですが、緑内障診療ガイドライン(第三版)によれば「本症の一部では、原疾患、他疾患の存在により緑内障性視神経症による視神経の形態的変化、機能変化(視野変化)の評価が困難である。このため、経過措置として、従来の解釈どおり、続発緑内障には続発性の眼圧上昇を有し、緑内障性視神経症を生じていない症例を含めることと」しております。

これらの理由で、包括的な緑内障の定義が困難なものとなっております。緑内障の本態は「進行性の網膜神経節細胞の消失とそれに対応した視野異常である緑内障性視神経症」であることには違いはないのですが、続発緑内障について言えば「眼圧上昇」のみで緑内障と診断することがあるからです。そのような事情もあり、患者さんに「自分は緑内障ですか?」と聴かれると、おこたえし辛いケースが多々あります。

正常眼圧緑内障眼における眼循環と中心視野障害との関係

統計学的に正常範囲内の眼圧に留まる正常眼圧緑内障眼は、高眼圧の原発開放隅角緑内障(狭義)眼と比べて、眼循環が悪く、より中心の視野障害を来しやすいという報告が以前から多くなされています。

本論文では、正常眼圧緑内障眼において、眼循環の指標となる眼潅流圧の日内変動を調べた結果、眼潅流圧の変動が大きいほど中心視野障害が強いと報告しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23963166

緑内障治療薬で緑内障の病期の進行を遅らせることができるか?

緑内障診療ガイドライン(第三版)によれば、「緑内障に対するエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は眼圧を下降すること」で、緑内障に対する、薬物、レーザー、手術の各治療も「眼圧下降」を目指しているに他なりませんし、そのような治療もはるか昔から行われてきました。しかしながら、エビデンス(根拠)が証明されたのは20年ほど前に過ぎません。近年、エビデンスに基づいた治療の有用性が求められていますが、高いエビデンスを得るのは容易ではありません。その中で、ランダム化比較試験を多数例、多施設で行うことは、ほぼ最高と言っても過言ではないエビデンスレベルです。

「眼圧下降」が緑内障治療に有効なことは証明されたのですが、薬物治療(点眼液)で眼圧を下降させることが、緑内障治療に有効であるとする多数例、多施設のランダム化比較試験は今までありませんでした。昨年初頭にThe United Kingdom Glaucoma Treatment Study (UKGTS)と呼ばれる、ラタノプロスト点眼を用いた研究の概要が報告されました。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22986112

この度、新たにUKGTSを行う症例についての報告がなされました。対象は516名、平均年齢は66歳、視野は比較的後期で、24か月間追跡調査がなされるという内容です。今後の結果を期待したいものです。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24126032

飲水試験と脈絡膜厚

以前にも述べました通り、飲水試験と呼ばれる緑内障誘発試験がかつて存在し、1リットルの水を5~15分で飲んだ後の眼圧上昇の程度により、一部の症例において緑内障診断を行っていました。しかしながら本試験は、安全性および診断の有用性の低さから、今日ではほぼ廃れてしまいました。飲水試験で眼圧が上昇する機序としては、房水流出抵抗の増加とともに、脈絡膜血管の拡張などが一因であると考えられています。

本論文で著者らは、健常人において、眼底の深部組織である脈絡膜をswept-source optical coherence tomographyという方法で観察したところ、飲水試験後に脈絡膜厚が厚くなったことを報告しました。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24021895

脳循環と緑内障

緑内障の本態は、「進行性の網膜神経節細胞の消失とそれに対応した視野異常である緑内障性視神経症(glaucomatous optic neuropathy: GON)」で、今日においては、眼圧は緑内障発症の危険因子の一つとして挙げられることが多く、GONは眼圧を筆頭とした種々の因子によって引き起こされているものと捉えられています。そのうちの一つが眼循環で、循環不全による緑内障発症および病期の進行を示唆する報告は多くなされています。

本論文は眼循環に大きくかかわる、後大脳動脈循環動態が、原発開放隅角緑内障においては低下していることを示唆しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23816432

加齢と緑内障

「緑内障の本態は進行性の網膜神経節細胞の消失とそれに対応した視野異常である緑内障性視神経症(glaucomatous optic neuropathy: GON)」ですが、加齢により網膜神経節細胞が減少することも知られています。しかしながら、同一被検者に対し、網膜神経節細胞の減少に伴う網膜神経線維層厚や黄斑部の網膜厚を継時的に調べた報告はほとんどなかったかと思われます。

本論文では、緑内障眼と健常眼とで、光干渉断層計(OCT)を用いて網膜神経線維層厚と黄斑部の網膜厚を前向きに4年間調べたところ、健常眼では継時的に両者が減少したことが証明され、緑内障眼においても、加齢の影響がみられたことがわかりました。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23993360