「緑内障」カテゴリーアーカイブ

若年性緑内障について

若年性緑内障(juvenile glaucoma)は、原発開放隅角緑内障の亜形のように捉えられていて、わたくしどもが使う教科書でもわずかな記載があるのみですが、緑内障専門医としては是非とも啓蒙したい疾患です。先ほど閲覧した米国眼科学会の会員用メールで、初めてきちんとした記載がなされていたのを拝読したので、こちらに紹介したいと思います。会員用メールですので、URLは貼りませんが、ご了承ください。

若年性緑内障は発症年齢から2群に分けられていて、5歳~35歳までと、35歳以上とのことです(欧州緑内障学会のガイドラインでは10~35歳です)。有病率は50000人に一人で、多くは常染色体遺伝をし、その他は原発開放隅角緑内障とほぼ同様の臨床所見がみられるのですが、大事なことは(多くの教科書で記載がなされていないことは)、40mmHg以上の眼圧上昇をみることがあり、稀に頭痛を契機にみつかることがあるということです。もちろん無自覚なことが多く、発見された時には重症なことがあり、点眼治療でも不十分で、多くは手術治療が必要となります。

若年性緑内障をスクリーニングすることは困難で、若くとも、何かあったら眼科にかかることが肝要と思います。特にコンタクトレンズ処方時はいいきっかけとなると思います。また、緑内障の家族歴(特に眼圧が高い緑内障)がある場合には、積極的な眼科受診をおすすめします。

片頭痛と緑内障

緑内障の発症および病期の進行に、眼循環や全身循環の低下が関与されていることが多くの報告で示唆されています。古典的に片頭痛と緑内障の関係についての報告もいくつかあります。一般的に片頭痛は頭部や三叉神経を栄養する血管が拡張することにより生じることが言われていますが、このような循環の変化が大きい人は緑内障になりやすいと考えられています。

本論文では、眼組織の深部である脈絡膜(血管が豊富な組織)を観察できる新しい光干渉断層計(enhanced depth imaging optical coherence tomograph)を用いて、片頭痛患者の脈絡膜厚を測定したところ、発作時や頭痛が起こった側の眼の脈絡膜厚が厚くなっていることを報告しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24574436

 

 

血管新生緑内障の治療

血管新生緑内障とは、糖尿病網膜症や網膜中心静脈閉塞症などの眼虚血性疾患において、虚血状態を補償するために新生血管や膜状物質が発生し、それらが房水の出口である隅角部を覆い、房水が排出されないために生ずる難治緑内障です。血管新生緑内障の治療として、緑内障診療ガイドライン(第三版)では、原疾患の治療(レーザーなど)のほか、「原発開放隅角緑内障に準じて薬物治療を行うが、…血管新生緑内障に対して抗血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor: VEGF)薬の眼内投与の有効性が報告されており、短期的な症状緩和や手術成績の向上に有効である。」、「線維柱帯切除術(代謝拮抗薬併用/非併用)を行う。レーザー線維柱帯形成術は無効であるばかりではなく有害である。」としています。

本論文は、抗VEGF抗体の点眼により、眼圧下降に一定の効果がみられ、かつ新生血管の退縮も一部にみられたと報告しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24556733

 

 

白内障術後の眼圧上昇

一般的に白内障手術後は、隅角開大やチン氏帯のテンションの変化などのため眼圧が下降することが多いのですが、症例によっては逆に眼圧が上がってしまうことがあります。本論文では、1270眼中、12眼が眼圧上昇し、何らかの処置を施したと報告していますが、眼圧上昇の理由は術後の消炎のためのステロイド使用、糖尿病患者の瞳孔ブロック、残余皮質などを挙げています。緑内障手術既往眼、特に若年の強度近視、糖尿病患者に白内障手術を行う場合は注意を要すると結論付けています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24557756

 

選択的レーザー線維柱帯形成術の有効性

緑内障診療ガイドライン(第三版)によれば、「緑内障に対するエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は眼圧を下降すること」であり、「原発開放隅角緑内障の治療は薬物治療を第1選択とする」ものの、眼圧コントロールが不良な場合には、薬物を増やすことが考慮され、「一般的に、眼圧コントロールに多剤(3剤以上)の薬剤を要するときは、レーザー治療や観血的手術などの他の治療法も選択肢として考慮する必要」があります。しかしながら、房水流出路である線維柱帯に小孔を形成させるアルゴンレーザー線維柱帯形成術では、術後の瘢痕形成により、かえって眼圧が上昇することがあり、一般的な緑内障手術である線維柱帯切除術では、眼圧管理などの理由で長期入院が必要なこともあり、いずれも忍容性に若干の問題があると考えます。比較的新しい治療である選択的レーザー線維柱帯形成術(selective laser trabeculoplasty; SLT)では、主に線維柱帯に溜まった色素を蒸発させて眼圧を下降させる治療で、治療効果の持続性は短いと言われているものの、正常な眼組織を破壊しないため、安全に繰り返し行える治療です。
本論文は、多剤併用の薬物治療でも眼圧コントロールが不良であった症例にSLTを行ったところ、一定の効果がみられたと報告しています。手術に抵抗のある方にはお奨めできる治療の一つと考えています。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24558611

睡眠時無呼吸症候群と緑内障

昨日いびきと緑内障についての新知見をアップしましたが、睡眠時無呼吸症候群は緑内障と関連するという報告が数多くあります。原因は循環不全や、持続陽圧呼吸療法による眼圧上昇などの機序が考えられています。

本論文では、大規模なスタディでの睡眠時無呼吸症候群と緑内障の関連を報告しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24555122

いびきと緑内障

いびきは上気道閉塞によって生じ、正常でも生じますが、種々の疾患が関与していることがあることが知られています。本論文はいびきと緑内障の関係を調べたもので、いびきは男性、肥満、高い収縮期血圧、若年、高い認知機能と関係したものの、これらの寄与因子を除外すると、開放隅角緑内障、閉塞隅角緑内障、網膜静脈閉塞のいずれにも関係がなかったと報告しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24551196

 

Dua’s layerと緑内障

従来まで、角膜は5つの層によって成り立っていると考えられていましたが、昨年新しくDua’s layerが発見され、教科書を書き換えるくらいのインパクトのある報告がありました。

http://timesofindia.indiatimes.com/home/science/Indian-doctor-finds-new-cornea-layer/articleshow/30588849.cms

Dua’s layerは、コラーゲンでできており、角膜内の水分量のバランスを取るのに役立っているのでは?と考えられていますが、この度、房水の流出路である、線維柱帯の表面にもDua’s layerがみつかり、房水流出のメカニズム解明の一助になるかもしれません。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24532799

傍中心暗点を有する緑内障患者に対する緑内障手術

緑内障性視野障害では、多くは後期になるまで中心視野が残存します。したがって、後期になるまで自覚症状がなかったり、視力低下がみられなかったりすることがよくあります。このような症例に対する緑内障手術は、急激な眼圧下降によるストレスなどのために、中心視野がなくなってしまい、重篤な視機能障害が生じうることが古典的に言われています。ただし、近年の緑内障手術では、急激に眼圧を下げるのではなく、術後の処置により少しずつ眼圧を下げるため、そのような視機能障害は稀であることが言われるようになっています。

本論文においても、中心視野を囲む暗点がある緑内障患者に対する緑内障手術において、一時的な視機能障害をのぞき、重篤な視機能障害を生じた例はなかったとしています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24522104

同名半盲と車の運転

両目の同じ側がみえなくなる症候を同名半盲といい、脳神経障害や一部の緑内障などでみられます。同名半盲を持つ患者においては、車の運転能力が落ちることが想定されますが、本論文によると、みえにくい部分を注視したり、頭や肩の位置を変えたりすることで、運転能力をある程度維持させていると報告しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24523869