以前当ブログでアップさせて頂いた通り、血圧と緑内障との関係ははっきりわかっていません。血圧が高いと眼圧もわずかながら上昇するということについては異論はないと思われますが、血圧が低いほど、おそらく視神経循環不全のために緑内障のリスクが高まるというパラドキシカルなデータもあります。多数の論文を検討したメタアナリシスを用いて解析した本論文によると、高血圧があると原発開放隅角緑内障のリスクは1.16倍高まり、収縮期血圧が10mmHg上昇すると眼圧は0.26mmHg、拡張期血圧においては、5mmHg上昇すると0.17mmHg眼圧が上昇すると報告しています。しかしながら、本論文で対象となった過去のデータは、精読してみますと眼圧が高いタイプの緑内障を対象としたスタディがほとんどで、日本人に多いと言われている正常眼圧緑内障において、同じことが言えるかどうかは不明であると考えます。
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近視の頻度について
学童において、世界的に近視化しているデータは多々あります。20~70万人を対象とした中国の横断的研究によると、1985年は28.6%であったのに対し、2010年には実に56.8%が近視であり、女児に多く、都会生活者に多かったというデータが発表されました。
妊娠と眼圧
http://www.jcrsjournal.org/article/S0886-3350(14)01100-6/abstract緑内障治療薬の多くは妊娠中は慎重投与となるため、緑内障患者に対する治療に難渋することがありますが、幸いなことに、妊娠中は眼圧が下がることが知られています。理由はホルモンの関係が考えられています。本論文では、妊娠中は角膜形状が変化していることを示し、そのために眼圧値が低めに出る可能性を示唆しています。
世界の緑内障の有病率について
緑内障の有病率は加齢とともに増加することが知られています。本研究は、過去のデータをメタアナリシスで解析し、世界における現在の緑内障の有病率と、高齢化および人口増加が進む将来の有病率の予測を行ったものです。
現在、世界の緑内障有病率は3.54%で、原発開放隅角緑内障はアフリカ人に多く、原発閉塞隅角緑内障はアジア人に多いとのことです。2013年の時点で、世界の緑内障患者は6430万人で、2020年には7600万人、2040年には11180万人に増加することが予測されます。原発開放隅角緑内障において、男性は女性よりも多く、都会生活者は郊外居住者よりも多かったということです。
http://www.aaojournal.org/article/S0161-6420(14)00433-3/abstract
i Padを用いた緑内障スクリーニングについて
緑内障性視神経障害または視野障害は、一般的に不可逆的なものなので、緑内障を早期に発見することは視機能障害を防ぐために極めて重要です。しかしながら、緑内障診断には特殊な検査が必要なことから、眼科受診やドック、健診などの機会がない場合には、緑内障を早期に発見することは困難と言えます。米国眼科学会のサイトによると、ネパールの緑内障患者を対象とした研究で、「visual field easy」というi Pad アプリを用いることで、眼科で通常行われる視野検査と51-79%の一致がみられたとする報告を紹介しています。このようなi Padアプリを用いた緑内障スクリーニングは、十分とは言えないまでも、有用である可能性があります。
http://www.aao.org/newsroom/release/ipadscreenings-effective-for-detecting-early-signs-of-glaucoma-in-underserved-high-risk-populations.cfm
https://itunes.apple.com/jp/app/visualfields-easy/id495389227?mt=8
勉強する子は近視になる?
近視は遺伝的要因と環境要因によって生ずるとされています。経験的に勉強する子は近視になり、外で遊ぶ子は近視になりにくいということは言われてはいましたが、元々きちんとした研究結果に基づくものではありませんでした。それでも、外で遊ぶ子は近視になりにくいというデータは数年前から報告されているようですが、逆に勉強などの近業が近視化させるというデータは、ここ1~2年になって、ようやく出てきているようです。本報告は、子どもではなく、大人についての断面的研究ですが、高学歴なほど近視が強いことが始めて示されました。
http://www.aaojournal.org/article/S0161-6420(14)00364-9/abstract
緑内障による視機能障害は眼圧を下げることで改善しうるか?
緑内障の本態は緑内障性視神経症であり、疾患により生じた視機能障害(視野障害)は原則不可逆的と考えられています。一方で、エビデンスのある唯一の治療法である眼圧下降治療で、わずかですが視野障害やコントラスト感度の向上がみられることもいくつかの報告によって示されています。この視機能の向上は、可逆的な網膜神経節細胞の存在によるものか、眼圧を下げること自体が健常な網膜神経節細胞の機能を向上させているのかはわかっていません。本論文は、統計学的に高い眼圧を有しながら、視神経障害、視野障害がみられない、所謂高眼圧症の症例に対して、眼圧下降治療で視野検査の感度が向上するかを調べたもので、感度が向上しなかったことから、緑内障患者における視機能向上は、視機能障害そのものを改善させている可能性があることを示唆しています。
http://www.aaojournal.org/article/S0161-6420(14)00361-3/abstract
加齢黄斑変性と喫煙
加齢黄斑変性とは、年齢を重ねるとともに、ものを見るために大切な網膜の黄斑部の下に老廃物が蓄積し、直接あるいは間接的に黄斑部が障害される疾患で、重篤な視機能障害を生ずることがあり、我が国の失明原因の第4位を占めると言われています。本疾患では食生活などの生活環境が発症または病期の進行に関連することがわかっています。本論文では、病期の進行に喫煙が関係していることを報告しています。
網膜静脈分枝閉塞症の危険因子
網膜静脈閉塞は何らかの原因により網膜静脈の血流が途絶え、視力低下や変視症を引き起こす眼科的に重要な疾患です。本症発症の危険因子として、高血圧は従来から言われていましたが、492488人を対象とした本研究においても、網膜静脈分枝閉塞症発症につき、高血圧と他の臓器障害を伴う糖尿病が危険因子として挙げられました。
緑内障画像診断の解像度
緑内障診療ガイドライン(第三版)によれば、緑内障の本態は、「網膜神経節細胞の消失とそれに対応した視野異常である緑内障性視神経症」である。近年、眼底三次元画像解析装置を用いた緑内障の補助的診断が盛んに行われており、光干渉断層計(OCT)による眼底検査は、多くの眼科診療所で取り入れられている。最近臨床導入された、より画像解像度が高いswept source OCT(SS-OCT)は、今日汎用されているspectral domain OCT(SD-OCT)より緑内障診断力の向上が期待される。しかしながら、SS-OCTとSD-OCTの緑内障診断力を比較した本報告では、緑内障性視神経障害についてはSS-OCTの方が捉えやすくなっていたものの、正常と緑内障を区別する能力については同等であったと結論付けている。