緑内障の病期はcontinuum(連続体)と言われ、網膜神経節細胞の死から始まり、自覚症状の出現、症例によっては最後は失明に至る疾患であり、どの時点から緑内障として定義されるかについてはあくまで人為的なものと言えます。一般的には視野検査が確定診断となります。緑内障診療ガイドライン(第三版)によれば、眼底検査において緑内障性視神経乳頭所見や網膜神経線維層欠損所見などの緑内障を示唆する異常がありながらも通常の自動静的視野検査で視野欠損を認めない状態をpreperimetric glaucomaと称することがある、と記載されています。本論文では、実際にpreperimetric glaucomaのうちどのくらいの割合で緑内障に移行するかが報告されており、3年間で13%としています。
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ストレスと緑内障について
ストレスと緑内障の関係について質問を受けることがよくあります。二つの関係について、明確なエビデンスはありませんが、心理学的ストレスが眼圧を上げるという報告はいくつかあり、特に交感神経が優位な状態では眼圧が上昇するということはよく知られていて、そもそも緑内障治療薬として、交感神経β遮断薬が緑内障治療の第一選択薬の一つとして用いられています。では観血的に交感神経を遮断するとどうなるか? 動物実験ではよく行われていることではありますが、1898-1910年において、実際に頚部交感神経切除術が緑内障手術の一つとして行われていたようです。効果は限定的だったようで、後により有効で安全な薬物治療や観血的治療に置き換わったようです。ただし、都会生活者の方が郊外生活者よりも緑内障有病率が高いなどの傍証から、負担ないれべるでの、ストレス軽減は緑内障発症や病期の進行抑制に有用ではないか、と思われます。
緑内障性視野障害の部位とQOL
緑内障性視野障害の特徴として、網膜神経線維の走行の関係から、水平経線を挟んで上または下半視野の障害が生じ、後期になると、上下とも視野障害が起こり、多くは中心視野は末期まで保たれるとされています。一般的には上半視野障害は自覚されにくく、下半視野は軽度の視野異常であっても、自覚されやすいことも指摘されています。本論文では、上または下半視野障害を有する緑内障患者のQOLを調べたもので、やはり下半視野障害の方が、QOLが低下すると報告しています。
http://archopht.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1973975
正常眼圧緑内障と篩状板の厚さについて
正常眼圧緑内障とは、原発開放隅角緑内障(広義)の中で、眼圧が健常眼の統計学的な正常範囲に留まるサブタイプであり、種々の点で眼圧が高いタイプの緑内障と病因が異なることが指摘されていますが、それでもやはり眼圧が最大のリスクファクターであることには違いがなく、治療も眼圧を下げることに変わりはありません。病因の仮説の一つとして視神経線維を支持する篩状板が健常眼に比べて脆弱であることが示唆されています。本論文では、視野障害を生じた正常眼圧緑内障眼について、視野が正常な他眼や健常眼に比べて、篩状板が薄かったと報告しています。
緑内障と心理社会的機能について
緑内障患者さんが有する不安感についての論文です。本報告によれば、緑内障患者さんは健常者に比して63%高い割合で不安感を感じ、71%低い割合で自己像を有し、心理社会的健康度が32.4%低く、健康管理に対する信頼が38.3%低かったとのことです。このような傾向は視力や視野に比例するということですが、健康管理に対する信頼度を向上させるようにすると、心理社会的機能は向上するとのことです。
http://www.aaojournal.org/article/S0161-6420(14)00933-6/abstract
落屑症候群に対する白内障手術について
落屑症候群とは、落屑物質が水晶体表面や瞳孔縁のみならず、房水流出路である線維柱帯や水晶体を支えるチン氏帯に付着することにより、白内障や水晶体偏位、難治緑内障を生じる疾患群です。落屑症候群に対する白内障手術はやや困難なことがあり、脆弱なチン氏帯のため、術中術後に眼内レンズの偏位が生ずることがあります。
本論文では、落屑症候群で生ずる眼内レンズの偏位が、緑内障眼、特に重症な場合に多いことを示しています。
http://www.aaojournal.org/article/S0161-6420(14)00824-0/abstract
眼圧下降治療に伴う緑内障性視野障害の改善について
基本的に緑内障性視野障害は不可逆的と言われていますが、近年眼圧下降治療に伴い、一時的にでも改善する例が存在することが示唆されています。本論文では、薬物により眼圧を下降させるより、手術により眼圧を急激に下降させた方が、視野障害の改善がみられる例が多いことを示唆しています。また、手術加療に伴う眼循環の改善と視野障害の改善に関連がみられたと報告しています。
小児におけるステロイド緑内障の割合
局所または全身の、長期または大量のステロイド投与により、一部の症例で眼圧上昇がみられ、診断が遅れた場合には重篤な視機能障害を生じることがあります。一般的には診断が早ければ、ステロイド中止により眼圧は下降します。小児緑内障を後ろ向きに調べた本論文によると、ステロイド緑内障の比率は24%と極めて高く、特に春季カタルの治療に合併すると報告しています。
選択的レーザー線維柱帯形成術の有効性
当院でも行っている選択的レーザー線維柱帯形成術(selective laser trabeculoplasty; SLT)は、房水流出路である線維柱帯に特殊なレーザーを照射することにより、流出抵抗の基である色素細胞や老廃物を除去したり、線維柱帯細胞の機能の活性化を促したりすることにより、房水流出を促し、眼圧を下げる治療であり、安全性が極めて高く、薬剤アレルギーがある症例や手術加療を望まない症例には有効な治療法であります。ただし、術後しばらくすると効果が減弱し、再照射する必要があるケースも少なからずみられます。本論文では照射エネルギーを高めることにより、より高い眼圧下降が得られる可能性を示唆しています。
ラタノプロスト点眼は視野障害進行を抑制させる
緑内障診療において、従来より、緑内障治療薬が眼圧を下げること、眼圧を下げることが視野障害進行を抑制させる唯一根拠のある治療であること、は証明されていましたが、緑内障治療薬を用いることで視野障害進行を抑制させることについては、高いエビデンスレベルでの研究はなされていませんでした。この度、英国でのランダム化比較試験において、代表的な緑内障治療薬であるラタノプロスト点眼液が、視野障害進行抑制の効果があることが初めて証明されました。
https://www.carenet.com/news/journal/carenet/39282