昨日同級の眼科女医さんが、緑内障についてのお話を某地方局でされました。非常にわかりやすく的確で、感銘を受けました。その中で出てきた用語、「正常眼圧緑内障」は、医者側としては患者さんに啓蒙したい用語なのですが、たぶん患者さんとしては却ってとっつきにくいかもです。「正常眼圧」って何か? たまに患者さんから質問を受けるのですが、簡単に言えば正常人を100人集めたら中央の95人が含まれる眼圧のことで、統計学的に規定されているものです。以前にも似たようなお話をしましたが、病気はある一定値を超えたから生じるというわけではなく、どの値で生じるかは人それぞれです。実際に眼圧が高い原発開放隅角緑内障(狭義)と正常眼圧緑内障を包括した用語、原発開放隅角緑内障(広義)においては、実に多くの正常眼圧患者(日本においては90%以上と言われてます)が含まれます。緑内障患者全体でみても70%以上とも言われています。
では、「正常眼圧」はどのくらいか? 日本における唯一の疫学調査である多治見スタディによれば、「右眼眼圧は14.6±2.7 mmHg(平均値±標準偏差)、左眼眼圧は14.5±2.7 mmHg(同)であり、正常眼圧を平均±2標準偏差で定義すると、正常上限は19.9~20.0 mmHg」となり、したがって「日本人において眼圧20 mmHgを境に原発開放隅角緑内障と正常眼圧緑内障の二臨床病型に分けることには一定の合理性」があります。
過去には「低眼圧緑内障」とも呼ばれていた一群ですが、病態が違う緑内障が含まれる可能性があることと、統計学的に正常眼圧であることから、「正常眼圧緑内障」という用語は院長が医者になりたての頃(20年近く前)に広まりましたが、現在においては、「正常」という用語が却って混乱を招くという声もあり、特に欧米においては比較的眼圧が低いという意味で、「low pressure glaucoma」という用語が復活しつつあるようです。患者さんには、「体温が37度でだるくなる人と、ぴんぴんする人がいるように、眼圧も高くても失明しない人もいれば逆の人もいる」などの説明をさせていただいてます。