月別アーカイブ: 2013年12月

緑内障って眼圧が高いの?

その通りです。ですが、「著しく高い」とまでは言えません。日本で行われた疫学調査によれば、健常眼の右眼の平均眼圧が14.5mmHgに対し、緑内障の中で最も多い病型である原発開放隅角緑内障(広義)(かつて原発開放隅角緑内障と正常眼圧緑内障と分けて分類されていた疾患が、今日統一した用語を用いてます)の右眼の平均眼圧は15.4mmHgで、有意に緑内障眼の方が高かったものの、「著しく」というほどではありません。しかしながら、「原発開放隅角緑内障(広義)の発症および進行の危険性は、眼圧値の高さに応じて増加」し、「視神経の眼圧に対する脆弱性には個体差がある」ため、眼圧が低くても、治療の原則は「(低くても)眼圧を下げる」ことに他なりません。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15350316

緑内障ってこわい病気?

この質問には、「はい」とも「いいえ」とも言い難いことがあります。日本においては失明原因の第一位であり、もちろんこわい病気であると言えます。一方で、日本に40歳以上の5%、70歳以上の約10%の人が緑内障であり、決して珍しい病気ではなく、もちろんこれら全ての人が失明しているわけではありません。それどころか、日本における最初の緑内障疫学調査によれば、緑内障と診断された人のうち9割が「今まで緑内障と診断されてなかった」ことがわかりました。ということは、健診もしくはたまたま何かのきっかけで眼科にかからなければ、「自分が緑内障である」ということを知らずに一生過ごす可能性があるということです。

緑内障の何がこわいかといえば、失われた視野(視機能)をもとに戻す方法がなく、治療はあくまでも病気の進行を止める、または遅らせること以外にないことです。ですので、早期発見早期治療が何より大事な疾患といえます。特に40歳以上になったら、何らかの形で眼科にかかるか健診を受けることをお勧めします。

緑内障患者さんの視野って?

多くの緑内障患者さんは自覚症状がありません。自覚する代表的な初発症状は視野欠損であって、一般的には後期にならなければ視力は低下しません。でも視野欠損ってどんな風にみえるのでしょうか? みなさん視野って耳側に手をパタパタさせて、それがみえるかどうかをイメージすると思います。多くの緑内障では、鼻側の視野に暗点が出て、病期が進むとそれが深くなり、拡がっていきます。周辺の視野が欠損するのは後期にならないとおきません。つまり光に対する感度が落ちるのが最初の症状ですので、緑内障の視野検査では、感度を調べる検査をまず行うことが一般的です。調べる範囲は中心24度または30度です。なぜこの範囲を調べるのでしょうか? 理由は自覚症状が出やすい範囲であるということと、古典的に緑内障の初期では95%がこの範囲に異常がみられると言われていることからです。

院長は、検査でみられる暗点は、患者さんも同じように自覚しているものと長い間思っていました。緑内障患者さんはどのように視野異常を自覚しているかを調べた論文があります。今年報告された重要な論文です。黒いトンネルを通じてみえるとか、黒い眼帯をしているようにみえるとかいうのは稀で、多くは部分的に霧視がみえるようです。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23415421

White Coat Adherence

院長は歯のメンテナンスを受けに数カ月に一度歯科医院にかかっているのですが、受診する直前に一生懸命歯を磨いてしまいます。このように、患者は医者に自分が「いい患者」であることをみせたがる傾向があります。診療機関にかかる直前に点眼する、内服するなどの行為をWhite Coat Adherenceといいます(いい日本語訳はないようですが)。緑内障診療の場で、眼圧が低いにも関わらず、視神経障害、視野障害の進行がみられる場合、White Coat Adherenceの可能性があります。いずれ述べますが、緑内障治療は完璧にできる患者の方がはるかに少ないので、かかりつけ医には、是非点眼状況を正直にお伝えすることをお勧めします。でないと、過剰な治療を勧められる可能性があるからです。

http://georgevanantwerp.com/2010/09/27/white-coat-adherence/

「私って緑内障ですか?」

よく患者さんに質問を受けるのですが、実は返答に困ることがしばしばあります。一般的な慢性疾患とは、ある時点から「病気」になるというわけではなくて、continuum(連続体)であって、この時点から「病気」と決めているのは人間だからです。もちろんWHOの高血圧の基準のように、(例えばこの数値以上になれば合併症が増えるとか)根拠があって病気が決められているのですが、緑内障においては、特徴的な(後々ご説明します)視神経障害、視野障害を診断するしかなく、網膜神経節細胞の死→失明に至る長い道のりのいつ、緑内障と診断するのか、明確とまで言える定義はありません。一応現状においては視野検査が確定診断になり、診断基準もあることにはあるのですが、機能異常(視野異常)が生じる前に経過観察や治療を開始する場合もあり、説明が困難なことがしばしばあります。また、そのような事情で、ある医者は「緑内障です」と診断する一方、別の医者にかかると「正常です」と言われることも多いのは、上述した理由が一因と思っています。

もう一つ踏み込んで、「(緑内障またはその疑いとして)現在はどういう状態でしょうか?」とか「治療は必要でしょうか?」などと聴いて頂けると、もう少し細やかな説明が医者からなされるかと思われます。

緑内障とは?

緑内障がどんな病気であるのかを定義するのはとても難しく、各国の緑内障のガイドラインの中で、定義が書かれているのは日本だけで、「緑内障は、視神経と視野に特徴的変化を有し、通常、眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患である」とあります。多くの方にはとっつきにくい表現と思いますが、緑内障の多くは眼圧が健常人の正常範囲内にあることが一因と考えます。緑内障の本態は「進行性の網膜神経節細胞の消失とそれに対応した視野異常である緑内障性視神経症」であり、近年では眼圧が高いことよりも視神経障害が存在することが緑内障の定義となりつつあると考えます。

緑内障診療ガイドライン(第三版)